飲食店版

雇用系助成金の使い分け: 目的別の早見表と、共通の落とし穴

2026年9月3日更新 / 飲食店主向けガイド

ナビコッコ
雇用系の助成金でいちばん多い失敗は「もう採用しました」「研修は先週やりました」です。ほとんどの制度は動く前に計画を出すのが条件。逆に言えば、年度の初めに30分だけ計画を書いておけば、同じ採用と研修でお金が戻ってきます。この30分の差が、年間で数十万円になります。

雇用系の助成金は種類が多く、どれが自社に効くのか分かりにくい領域です。しかし整理すると目的別に6系統しかなく、しかも共通する落とし穴はただ一つ——「動く前に計画を出す」です。この記事では、目的別の早見表、それぞれの事前手続き、そして年度の進め方を整理します。要件・金額は年度ごとに見直されるため、最終確認は労働局の支給要領で行いましょう。

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目的別の早見表

やりたいこと制度事前にやること
アルバイトを正社員にしたいキャリアアップ助成金キャリアアップ計画の提出、就業規則に転換制度を規定
賃上げと同時に設備を入れたい業務改善助成金交付申請(設備の購入は交付決定後)
従業員に研修を受けさせたい人材開発支援助成金研修開始前の計画届
未経験者を試しに雇いたいトライアル雇用助成金ハローワーク等の紹介で採用すること
高年齢者・障害者などを雇いたい特定求職者雇用開発助成金紹介経路の要件を満たすこと
育児・介護と両立できる職場にしたい両立支援等助成金制度の整備と、対象者の取得実績
売上減少で休ませたい(雇用維持)雇用調整助成金労使協定、休業等実施計画届

共通の落とし穴: 順番を間違えると1円も出ない

雇用系助成金の相談で最も多い失敗は、次の3つです。

  1. 採用してから相談する: トライアル雇用や特定求職者雇用開発は、ハローワーク等の紹介で採用することが要件。自分で見つけた人を雇った後では対象外です
  2. 研修を実施してから相談する: 人材開発支援助成金は研修開始前の計画届が必須。終わってからでは申請できません
  3. 設備を買ってから相談する: 業務改善助成金は交付決定後に購入するのが原則。先に買うと対象外です

「良い人がいたから先に採用した」「急ぎの研修だったから先に受けさせた」——気持ちは分かりますが、制度はそこを厳格に見ます。年度の初めに、今年やる採用・研修・設備投資を書き出すだけで、この失敗は防げます。

数字で見る: 30分の計画がいくらになるか

取り組み計画を出していた場合出していなかった場合
アルバイト2名の正社員化キャリアアップ助成金の対象対象外(転換後の申請は不可)
調理スタッフの技能講習(3名)研修費と賃金の一部が助成対象対象外
最低賃金の引上げ+食洗機の導入業務改善助成金の対象対象外(購入後の申請は不可)
年間の差の実感数十万円規模(制度と人数による)

この表の「差」は、仕事の中身が同じでも生まれます。やることは変わらず、順番だけが違う——それが雇用系助成金の本質です。

金額の相場観をつかむ

制度ごとの支給額は要件と企業規模で変わりますが、飲食店でよく使う組み合わせの実感値を並べておきます。金額は年度で見直されるため、必ず最新の支給要領で確認しましょう。

取り組み支給額の目安(中小企業・1件あたり)手間の目安
有期契約から正社員への転換1人あたり50万〜80万円規模就業規則の改定+6ヶ月の勤務実績+申請で20〜30時間
事業場内最低賃金の引上げ+設備導入設備費の3/4〜9/10・上限30万〜600万円規模交付申請と実績報告で20〜40時間
技能講習・資格取得の研修経費の45〜75%+賃金助成(1時間あたり数百円〜)計画届+実施記録+申請で15〜25時間
未経験者の試行雇用(3ヶ月)1人あたり月4万円×3ヶ月=12万円規模10時間前後
高年齢者・就職困難者の雇入れ1人あたり60万円規模(対象と期間で変動)15時間前後

時給換算すると、20時間の手間で50万円が戻る取り組みは時給2.5万円の仕事になります。「面倒だから」で見送るには惜しい水準——これが雇用系助成金の実像です。年2〜3件を計画的に回せば、年間で100万円規模の差になります。

労務管理の土台がないと使えない

助成金は「労務管理ができている事業所」への支援です。次が整っていないと、そもそも申請できません。

  • 雇用保険・労災保険への加入と保険料の納付
  • 就業規則(常時10人以上の事業場は作成・届出義務。10人未満でも整備を推奨)
  • 出勤簿・賃金台帳・労働者名簿の整備
  • 36協定の締結と届出、労働時間の適正な管理
  • 最低賃金の遵守(毎年10月前後に改定)

逆に言えば、助成金の準備は労務管理を整える機会にもなります。整えた体制は、採用の説得力や、いざというときの労務トラブルの予防にもつながります(社会保険と年収の壁のガイド)。

年度の進め方(モデル)

時期やること
年度初め(4〜5月)今年の採用人数・研修計画・賃上げ計画・設備投資を書き出す。使う制度を選び、計画届の提出時期を確認
採用の前ハローワークへの求人、紹介要件の確認、就業規則の点検
研修の前人材開発支援助成金の計画届を提出
設備投資の前業務改善助成金の交付申請(購入は交付決定後)
10月前後最低賃金の改定に合わせて賃金を点検。賃上げ系の制度は改定前の申請が有利なことがある
随時支給申請の期限管理。期限切れは救済されません

年間の回収イメージ

年度の取り組み件数助成額の目安準備にかかる時間
アルバイト2名の正社員化2件100万〜160万円規模40〜60時間
調理スタッフ3名の技能講習1件15万〜40万円規模15〜25時間
最低賃金の引上げ+食洗機の導入1件30万〜100万円規模20〜40時間
年間の合計4件145万〜300万円規模75〜125時間

時給換算すると1時間あたり1万5,000円前後の作業になります。もちろん要件を満たす取り組みを実際に行うことが前提ですが、やる予定だったことの順番を変えるだけでこの差が生まれるのが雇用系助成金の特徴です。年度初めに4件の計画を立て、社労士に依頼するか自社でやるかを決めておきましょう。

補助金との違いを押さえる

雇用系の助成金(厚労省系)補助金(経産省・自治体系)
審査要件を満たせば支給される設計公募・審査があり、採択される必要がある
時期通年で受け付けるものが多い公募期間が限られる
事前手続き計画届・計画の認定交付申請・交付決定
対象人(雇用・賃金・研修)モノ・コト(設備・販路・システム)
共通点どちらも先に届け出て、後からお金が入る

実務チェックリスト

  • ☐ 今年度の採用人数・研修・賃上げ・設備投資を書き出した
  • ☐ それぞれに対応する助成金を選び、計画届の提出時期を確認した
  • ☐ 「動く前に届け出る」原則を、店長・採用担当と共有した
  • ☐ 雇用保険・労災保険の加入と納付状況を確認した
  • ☐ 就業規則が実態と合っているか点検した(転換制度・評価制度の規定を含む)
  • ☐ 出勤簿・賃金台帳・労働者名簿を整備した
  • ☐ 最低賃金の改定時期(10月前後)を年間カレンダーに入れた
  • ☐ ハローワーク等の紹介が要件になる制度を把握した
  • ☐ 支給申請の期限をカレンダーに登録した
  • ☐ 労働局・ハローワークの窓口で、自社が使える制度を相談した
  • ☐ 社労士に依頼する場合の費用と範囲を確認した

結論: 年度初めの30分がすべてを決める

雇用系助成金は、目的別に6系統、共通の落とし穴は1つです。正社員化はキャリアアップ、賃上げ+設備は業務改善、研修は人材開発、未経験採用はトライアル雇用、両立支援は両立支援等、雇用維持は雇用調整。そして全部に共通するのが「動く前に計画を出す」。年度の初めに今年やることを書き出し、使う制度を決めておく——この30分で、同じ取り組みが数十万円の差になります。要件・金額は年度ごとに変わるため、労働局の支給要領で必ず確認しましょう。

設備投資に使える制度は、どの地域に多いか

2026年9月3日時点で該当する296件を地域別に数えました。うち全国対象が46件で、これはどの地域の飲食店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている213件で見ると、中央値は200万円、最大は10億円です。下から4分の1は50万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は【追加募集のお知らせ】第3次 富山県中小企業トランスフォーメ…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 雇用系の助成金にはどんな種類がありますか?

A. 目的別に分かれています。非正規から正社員への転換はキャリアアップ助成金、賃上げと設備投資のセットは業務改善助成金、研修は人材開発支援助成金、未経験者の採用はトライアル雇用助成金、就職困難者の採用は特定求職者雇用開発助成金、育児・介護との両立は両立支援等助成金が代表です。

Q. 共通する注意点は何ですか?

A. <strong>取り組みを始める前に計画を提出する</strong>ことです。採用してから、研修を始めてからでは対象外になる制度がほとんどです。また、労働保険への加入、就業規則の整備、出勤簿・賃金台帳の整備といった労務管理の土台が前提になります。

Q. 補助金と助成金はどう違いますか?

A. 一般に助成金は要件を満たせば支給される設計(審査で落とされる性質が薄い)、補助金は公募で審査があり採択される必要がある、という違いがあります。雇用系の多くは厚生労働省の助成金で、公募期間がなく通年で受け付けられるものが多いのも特徴です。

Q. アルバイト中心の店でも使えますか?

A. 使えます。むしろキャリアアップ助成金は有期契約の従業員を正社員に転換する制度なので、アルバイト中心の店と相性がよい制度です。ただし雇用保険の被保険者であることなど、対象者の要件を確認しましょう。

Q. 申請は自分でできますか?

A. 可能ですが、就業規則の改定や計画届の作成が必要な制度もあり、社会保険労務士に依頼する事業者も多い領域です。まずは労働局・ハローワークの窓口で、自社が使えるものを相談するところから始めましょう。

Q. 不正受給になるのはどんな場合ですか?

A. 実態のない雇用や研修、書類の改ざん、要件を満たさないのに満たしたと申告する行為などです。返還に加えて事業所名の公表や以後の不支給といった重い措置があります。記録を正確に残す運用が、結果として自社を守ります。

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