飲食店版

賃上げと助成金:義務を投資に変える

2026年7月19日更新 / 飲食店主向けガイド

ナビコッコ
最低賃金の改定は毎年10月。7月のいま計画を立てる店と、10月に慌てる店で、1年後の体力が変わります。

最低賃金は毎年上がり続けています。これを「毎年秋にやってくる負担」と受け身で捉えるか、「支援制度を使って生産性ごと上げる機会」に変えるかで、数年後の店の体力が変わります。

年次リズムを知る

最低賃金は例年、夏ごろに改定額が固まり10月ごろ発効します。つまり飲食店の人件費カレンダーは:

  • 春〜夏 — 改定の報道が始まる。この時期に翌期の人件費と設備投資を計画するのが理想
  • 夏〜秋業務改善助成金など賃上げ系支援の動きが活発になる時期。予算枠の関係で早い者勝ちの側面も
  • 10月〜 — 新賃金発効。就業規則・雇用契約・シフト単価の更新を忘れずに

賃上げを投資に変える2つの定番

  • 業務改善助成金 — 「時給を上げる」と宣言して、券売機・食洗機など省力化設備の費用の一部をもらう。賃上げがどうせ必要なら、設備もセットで手に入れる発想です
  • キャリアアップ助成金 — 賃上げを伴うバイトの正社員化で受給。店長育成と組み合わせる王道

さらに近年は、持続化・ものづくり等の一般的な補助金でも「賃上げ枠」による上限アップや加点が定番化しています。賃上げ計画がある店は、あらゆる補助金申請で有利になる時代です。

注意点

  • 助成金の賃上げは恒久的な引き上げが前提。もらって戻すことはできません
  • 賃金台帳・出勤簿・雇用契約書の整備が受給の前提条件。日頃の労務管理が甘いと、いざという時に申請できません

賃上げのコストを数字で見る

「時給50円アップ」の実際の重みを計算してみます。スタッフ5人・それぞれ月120時間勤務の店なら:

50円 × 5人 × 120時間 = 月3万円、年間36万円(社会保険の事業主負担分を含めるとさらに1割強増)。決して軽くない一方で、「求人時給の50円差」が応募数を左右する時代でもあります。この年36万円をただのコストにするか、助成金と省力化をセットにした投資にするか——それが本ページの主題です。

賃上げ原資のつくり方3点セット

  • 省力化で人時を減らす — 券売機・食洗機・モバイルオーダー(業務改善助成金で設備費の一部を確保)。「同じ人数でより多く回す」が原資の第一候補
  • 価格転嫁物価高騰対策ガイドの計算例の通り、5%前後の値上げは粗利を大きく回復させます
  • メニューミックス改善 — 粗利の高いドリンク・サイドの出数を増やす設計。原価をかけずに粗利率を上げる王道

賃上げ実務のチェックリスト

  • □ 就業規則・賃金規定の改定(助成金の申請要件になることが多い)
  • □ 雇用契約書の再締結・賃金台帳の更新
  • □ 助成金は賃上げの「前」に申請・計画提出が必要なものが多い——上げてから気づいても遡れません
  • □ 最低賃金改定(例年10月)との整合——改定後の最低賃金を下回らないか毎年確認

簡易でいい:賃金テーブルを作ると経営が楽になる

「賃上げのたびに個別に悩む」状態から抜けるには、シンプルな役割等級表が効きます。飲食店なら3段階で十分です:

等級できること時給レンジの例
新人指示を受けて基本業務ができる地域の最低賃金〜+50円
一人前持ち場を任せられる(仕込み・締め作業含む)+50〜150円
リーダー新人教育・発注・シフト調整ができる+150〜300円

効果は3つ。①昇給の基準が見えてスタッフのモチベーションになる、②「頑張れば上がる」が求人票の武器になる、③最低賃金改定時は表ごと底上げすればよく、賃金設計が資産になる。紙1枚で作れて、キャリアアップ助成金の就業規則整備とも接続します。

ミニケース:5人の店の「賃上げ+助成金」組み合わせ実例

  1. 10月の最低賃金改定を前に、8月時点で計画を立てる(賃上げ実施「前」の申請が鉄則
  2. 事業場内最低賃金を50円引き上げる計画で業務改善助成金を申請、食洗機を導入
  3. 賃上げコストは月3万円(5人×120h×50円)。食洗機で洗い場の人時が1日1.5時間減り、月約5万円分の人件費を吸収
  4. 翌年、ホールリーダーをキャリアアップ助成金で正社員化——2年がかりの「賃上げを投資に変える」設計です

最低賃金改定の実務チェック(毎年10月前)

  • □ 自県の改定額と発効日を確認(都道府県で異なります)
  • □ 全スタッフの時給が新最低賃金を下回らないか点検(研修中・高校生も対象です
  • □ 賃金テーブルの底上げと、それに伴う月次人件費の再計算
  • □ 業務改善助成金など「改定前の駆け込み申請」の可否を労働局に確認

時給以外の「報酬」も設計する

賃上げ原資が限られるなら、時給以外の報酬で総合的な魅力を上げる手があります:

  • まかない・食事補助 — 飲食店最強の福利厚生。本人負担・提供方法によって税務上の扱い(給与課税になるか)が変わるため、ルールを決めて税理士に一度確認を
  • 交通費 — 非課税枠内での支給は本人の手取り効率が良い項目です
  • インセンティブ — 「レビュー投稿のお礼を◯件獲得で◯円」など、成果連動の小さなボーナスは時給より納得感を作りやすい
  • 資格取得支援 — 調理師・ソムリエ等の受験料補助。人材育成系の助成金と接続できる場合もあります

昇給面談の回し方:10分×年2回でいい

  1. 準備 — 賃金テーブル(前述)と、本人の「できること」の現状を1枚に
  2. 面談 — ①今できていることを具体的に伝える(2分)②次の等級に必要なことを1〜2個だけ示す(3分)③本人の希望を聞く(5分)
  3. 決定 — 昇給の有無と理由をその場で、または1週間以内に伝える。「なぜ上がらないか」が説明される店は、上がらなくても辞めません

賃上げでよくある失敗

  • 全員一律で上げて原資が尽きる — テーブルに基づく差のある昇給が、頑張る人の納得感も原資も守ります
  • 新人と古参の逆転 — 求人時給を上げた結果、既存スタッフより新人が高くなる「賃金の逆転」は離職の引き金。求人時給を上げる日は既存の時給も点検する日です
  • 助成金の要件を後から知る — 賃上げ「後」では申請できない制度が多い。上げる前に雇用・人材カテゴリと労働局を確認する習慣を

「最低賃金を下回っていないか」の正確な確認方法

時給制なら時給と最低賃金を比べるだけですが、見落としやすい論点があります:

  • 算入されない手当がある — 通勤手当・精皆勤手当・時間外割増などは最低賃金の比較計算に含めません。「手当込みなら超えている」は誤りです
  • 月給制スタッフの換算 — 月給 ÷ 月平均所定労働時間で時給換算して比較します。例:月給20万円 ÷ 月170時間 = 時給約1,176円。この数字が地域の最低賃金を下回れば違法状態です
  • 研修期間・試用期間も原則同額 — 減額には都道府県労働局の許可が必要で、「研修中だから」の自主判断は通りません

賃上げをスタッフにどう伝えるか

せっかくの賃上げも、給与明細で気づかせるだけでは効果が半減します。「何を評価しての昇給か」を一言添えて手渡す——「発注を任せられるようになったから」の一言が、金額以上の定着効果を生みます。全体の底上げ(最低賃金対応)と個人の昇給(評価)を区別して伝えるのもポイントです。混ぜると「全員上がったなら自分は評価されていない」と受け取られます。

よくある質問

Q. 最低賃金はいつ上がりますか?

A. 例年、夏に改定額が決まり10月ごろに発効するのが年次リズムです。飲食店は最低賃金近傍の時給設定が多いため、毎年秋は人件費の見直しシーズンと考えて備えるのが実務的です。

Q. 賃上げにお金の支援はありますか?

A. あります。代表格が業務改善助成金(賃上げ+設備投資をセットで支援)です。また多くの補助金で「賃上げ枠」の優遇が設けられる傾向が続いています。

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