飲食店版

キャリアアップ助成金:飲食店での使い方

2026年9月3日更新 / 定番制度の飲食店向け解説

ナビコッコ
この助成金の失敗談は、ほぼ全部「先に正社員にしちゃった」です。頑張ってるバイトの顔が浮かんだその日が、労働局に計画書を出す日。転換はその後です。順番だけは忘れないでください。

ホールを任せているアルバイトのエースがいる。シフトの穴は埋めてくれるし、新人の教育までやってくれる。「この人が正社員になってくれたら2号店が出せる」——多店舗化を考える飲食店が必ず通る場面です。その一歩を後押しするのが、この助成金。アルバイト・パートの正社員化に対する、雇用系で最も知られた制度です。

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典型シナリオ:店長候補の正社員化

6ヶ月以上働いてくれている週5のホールリーダーを、店長候補として正社員に転換する。要件を満たす賃金引き上げ(目安として3%以上)を行い、転換後も6ヶ月雇用を続けて申請——これで1人あたり数十万円規模の助成が受けられます(金額・加算は年度で変わるため、着手前に最新の要領を確認しましょう)。

複数人を段階的に転換すれば、その都度対象になります。「店長を社員にした半年後に、キッチンのエースも」という多店舗化の王道パターンと、制度の設計がそのまま噛み合っています。

打診の仕方にもコツがあります。待遇の話から入ると「今のままでいいです」と返されがちです。「1年後に2号店を任せたい。そのための正社員化」と、役割とセットで打診する——この順番だと、本人にとって昇格の話になります。時給がいくら上がるかより、何を任されるかで人は動きます。

お金の実感:3%の賃上げは月いくらか

時給1,150円・月160時間で働くフルタイムのアルバイトなら、月給換算で18.4万円。これを3%引き上げると約19万円、差額は月5,500円・年6.6万円です。

加えて正社員化すると社会保険の会社負担(給与の15%前後)が乗ります。すでに社保加入済みのフルタイマーなら増分は賃上げ分だけですが、未加入だった場合は月3万円弱の恒久コスト増を見込む必要があります。助成金は初年度にまとまって入りますが、人件費増はずっと続く。「助成金がもらえるから転換する」ではなく、「転換を決めた人がいるから、助成金も取る」の順番で考えるのが健全です。

鉄則:転換の「前」に計画書

この助成金の失敗のほとんどは、たった一つの原因です。先に正社員にしてしまった。転換後にどれだけ要件を満たしていても、遡っては申請できません。順番はこうです。

順番やること時間の目安
キャリアアップ計画書を労働局に提出転換の前月まで
就業規則に「転換制度」の規定を整備①と並行
正社員に転換・賃金引き上げ計画書の期間内
転換後6ヶ月の賃金を支払う6ヶ月
支給申請(④の後2ヶ月以内)申請期限に注意
審査 → 支給数ヶ月

①から⑥まで、おおむね1年がかりです。「来月から社員ね」と口約束する前に、労働局への提出が先。ここだけは順番を間違えないでください。

「うちは労務がちゃんとしてないから無理」——半分正解、半分誤解

正解の半分:雇用保険・社会保険の適正な加入、残業代の支払い、賃金台帳の整備は受給の前提です。タイムカードも就業規則もない状態では受給できません。

誤解の半分:それは「無理」ではなく「整えるきっかけ」です。就業規則の整備も社保の加入も、多店舗化するならどのみち避けて通れません。助成金を目標に労務を整えた結果、「求人で人が来る店」になった——という順番は、飲食店の成長でよくある道筋です。整備の中身は社会保険ガイドにまとめてあります。

社労士に頼む?自力でやる?

就業規則の改定が絡むため、社労士に相談する店が多数派です。相場観は、単発相談で1回1〜3万円、申請までの代行で助成額の10〜20%程度。顧問契約(月2〜4万円)は必須ではなく、スポット対応の事務所を探せば十分です。自力でやる場合は、労働局のリーフレットと様式を読み込む時間を10時間単位で見込んでください。時給換算でどちらが得かは、あなたの繁忙次第です。

本人との話し合いで必ず出る2つの論点

制度の要件を満たしていても、本人が首を縦に振らなければ始まりません。実際の話し合いでつまずくのは、ほぼこの2点です。

論点1:手取りの変化。正社員化で社会保険に加入すると、本人負担分(給与の15%前後)が天引きされ、額面が上がっても手取りが思ったほど増えない——ここで戸惑う人が多い。月給19万円なら本人負担はおよそ2.8万円。「社員になったのに手取りが減った」と感じさせたら定着どころではありません。将来の年金・傷病手当・失業給付が厚くなる対価であることを、金額で示して説明しましょう。配偶者の扶養内で働いてきた人なら、いわゆる「年収の壁」の整理も必要です(制度改正が続いている論点なので、最新の状況は社会保険ガイドで)。

論点2:働き方の変化。「正社員=シフト自由がなくなる」という不安です。フルタイム正社員だけでなく、所定労働時間の短い正社員や勤務地限定正社員という設計もあり得ます。就業規則にどう定義するかの話なので、本人の生活と店の必要のすり合わせを先に、規定づくりはそれに合わせて。ここが社労士に相談する価値が一番出る部分です。

1年間のカレンダー実例

「来年4月に2号店を出す。ホールリーダーのAさんを店長にしたい」という居酒屋の場合、逆算するとこう動きます。

時期動き
今月Aさんに打診・合意。社労士にスポット相談を申し込む
翌月キャリアアップ計画書を労働局に提出。就業規則に転換規定を整備
3ヶ月目正社員転換・賃上げ実施。社保手続き
4〜9ヶ月目転換後6ヶ月の賃金支払い期間。この間に2号店準備を並走
10ヶ月目支給申請(期限は6ヶ月経過後2ヶ月以内)
1年前後審査を経て支給。2号店の開業資金の一部に

ポイントは、店舗展開の計画と助成金のスケジュールが自然に重なることです。「2号店の開業費用がかさむ時期に、前年に仕込んだ助成金が入る」——この時間差を設計に使いましょう。

不支給になる典型パターン

  • 計画書より先に転換した — 最多。救済はありません
  • 賃金引き上げが要件に届いていなかった — 基本給以外の手当の扱いなど計算ルールが細かい。3%は余裕を持って設計する
  • 残業代の未払い・雇用保険の未加入が発覚 — 申請書類の審査で賃金台帳を見られて判明するケース
  • 支給申請の期限(転換後6ヶ月の賃金支払いから2ヶ月以内)を逃した — 1年がかりの手続きの最後で失効するのが一番悲しい失敗です
  • 転換後すぐの離職 — 本人都合でも支給に影響します。転換は「辞めなさそうな人」への打診が先

正社員化コース以外もある

この助成金は複数コースの集合体です。飲食店で使う可能性があるのは、賃金規定を整備して昇給の仕組みを作るコース、賞与・退職金制度を新設するコースなど。単体では金額が小さめでも、「正社員化+処遇改善」を段階的に進める設計と相性があります。コース構成は年度でよく変わるため、最新のパンフレットで全体像を見てから組み合わせを考えましょう。

申請前チェックリスト

  • 転換したい人は6ヶ月以上雇用しているか、本人に正社員になる意思はあるか
  • 雇用保険の適用事業所か。対象者は雇用保険に加入しているか
  • キャリアアップ計画書を「転換前に」出す段取りになっているか
  • 就業規則に転換制度の規定はあるか(無ければ整備から)
  • 賃上げ3%と社保負担を織り込んだ人件費計画を作ったか
  • 転換後6ヶ月+申請期限2ヶ月のスケジュールをカレンダーに入れたか
  • 転換後の労働条件通知書を新しく交わす準備はあるか(アルバイト時代の書面のままでは転換の証明で詰まります)

整理します。エースの顔が浮かんでいるなら、今日やるのは本人への打診と労働局のリーフレット入手。転換はすべての書類が揃ってから。正社員化は助成金の額以上に、店の採用力と定着率を変える投資です。人手不足の全体戦略は人手不足ガイドで。賃上げ系の制度は業務改善助成金との使い分けも検討しましょう。

現在の公募状況

現在、この制度に関連する公募が2件募集中です(2026年9月3日時点・毎朝自動更新):

飲食店対象

キャリアアップ助成金

非正規スタッフの正社員化や賃金・処遇改善を実施した場合、事業主に助成金を支給。飲食店の人材確保・定着に活用可能。

地域: 全国 上限: 公募要領を確認
飲食店対象

キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)

短時間労働者を社会保険加入させて処遇改善する事業主に対し、手当支給や労働時間延長で助成。飲食店の非正規従業員対策に活用可能。

地域: 全国 上限: 公募要領を確認

よくある質問

Q. どんなときに使えますか?

A. 代表例は「正社員化コース」で、6ヶ月以上雇用したアルバイト・パートを正社員に転換し、賃金を引き上げて6ヶ月雇用を続けると申請できます。

Q. 事前に何が必要ですか?

A. 転換の前に「キャリアアップ計画書」を労働局に提出しておく必要があります。転換してから気づいても遡れないため、正社員化を考え始めた時点で準備するのが鉄則です。

Q. いくらもらえますか?

A. 正社員化1人あたり数十万円規模が目安です。金額・加算の条件は年度で変わるため、最新の要領やリーフレットで確認しましょう。

Q. 個人事業の店でも使えますか?

A. はい。雇用保険の適用事業所であれば個人事業主でも対象です。逆に言うと、雇用保険に未加入のままでは受給できません。

Q. 社労士に頼まないと無理ですか?

A. 自力申請も可能ですが、就業規則の整備が絡むため社労士に相談する店が多いのが実態です。顧問契約がなくても単発(スポット)で受けてくれる事務所があり、相場は単発相談で数万円、申請代行は助成額の10〜20%程度です。

Q. 何人まで対象にできますか?

A. 年度ごとの支給上限人数の枠内であれば複数人の転換が対象になります。段階的に1人ずつ転換していく多店舗化のパターンとも両立します。人数上限は年度で変わるため最新の要領で確認しましょう。

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