新事業進出・ものづくり補助金:飲食店で使えるケース
看板商品の餃子を冷凍して、店に来られない人へ通販で売りたい。自家製麺の技術を生かして、麺をほかの店へ卸したい。このように「いまの店の延長」ではなく「新しい商品や新しい客層に踏み出す投資」を考え始めたとき、候補に挙がるのがこの制度です。
「ものづくり補助金」という通称から製造業専用と誤解されがちですが、飲食店を含むサービス業も対象です。2026年からは、ものづくり補助金と新事業進出補助金を一体で運用する「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」に変わりました。旧ものづくり補助金の公募は23次(2026年5月8日締切)が最後で、これから申請できるのは新制度です。このページでは、新制度の第1回公募要領(1.3版)に沿って、飲食店がどの枠をどう使えるかを整理します。
2026年からの新制度:飲食店が使う2つの枠
新制度には「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3つの枠があります。輸出の体制づくりを支えるグローバル枠を除くと、飲食店が検討するのは次の2つです。
| 項目 | 革新的新製品・サービス枠 | 新事業進出枠 |
|---|---|---|
| 対象 | 自社の技術を生かした新製品・新サービスの開発 | 既存事業と異なる新しい市場・高付加価値事業への進出 |
| 補助額 | 下限100万円。上限は従業員5人以下750万円、6〜20人1,000万円、21〜50人1,500万円、51人以上2,500万円(賃上げ特例で最大3,500万円) | 下限750万円。上限は従業員20人以下2,500万円、21〜50人4,000万円、51〜100人5,500万円、101人以上7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円) |
| 補助率 | 1/2(小規模事業者は2/3) | 1/2 |
| 建物費 | 対象外(機械装置・システム構築費が必須) | 対象(建物の建設・改修。機械装置・システム構築費か建物費のどちらかが必須) |
| 実施期間 | 交付決定から10か月以内 | 交付決定から14か月以内 |
飲食店で「小規模事業者」になるのは、常勤従業員が5人以下の店です(商業・サービス業の基準)。小規模事業者が革新的新製品・サービス枠を使うと、補助率が2/3に上がります。新事業進出枠の使い方は新事業進出枠のページで詳しく扱っています。
飲食店で向いているケース・向かないケース
| 向いている | 向いていない |
|---|---|
| 自家製麺・焙煎など店の技術を生かした製造小売・卸への進出 | 古いオーブンの買い替えなど、既存設備の単なる置き換え |
| 急速冷凍機と包装ラインで新しい冷凍商品を開発し、通販や卸の新しい客層へ売る | 壊れた冷蔵庫の入れ替え(→冷蔵庫ページの別制度へ) |
| 自社の調理技術を生かし、同業でまだ広まっていない新サービスを開発する | 内装のリニューアル(→持続化補助金や自治体制度へ) |
| 新事業のための加工場の建設・改修(新事業進出枠のみ) | セントラルキッチン化や自動調理機器による省力化など、いまの業務の効率化だけの投資(→省力化投資補助金へ) |
分かれ目は「新しさ」です。新制度は、既存事業のプロセス改善だけの計画や、設備を入れるだけで新製品・新サービスの開発を伴わない計画を対象外にしています。革新的新製品・サービス枠では、同じ地域の同業者に広く普及している商品・サービスの開発も対象になりません。新事業進出枠では、メニューを1品増やすだけの計画、同じ商品を別の商圏で売るだけの計画、提供量を増やすだけの計画が、対象外の例として公募要領に挙がっています。キッチンカーのような車両は、どちらの枠でも補助対象経費になりません。どれだけ高額な設備でも、事業の中身が変わらなければ通らないと考えましょう。
お金の実感:1,000万円の投資はこう動く
急速冷凍機と真空包装ラインで総額1,000万円(税抜)の新商品開発を、革新的新製品・サービス枠で申請する例で計算します。常勤従業員が6人以上の店なら、補助率1/2で補助500万円・自己負担500万円です。5人以下の小規模事業者なら補助率2/3で、補助は約667万円、自己負担は約333万円に変わります。どちらも上限(6〜20人は1,000万円、5人以下は750万円)の内側に収まります。
加工場の改修費も入れたい場合は、枠の選び方に注意しましょう。建物費を補助対象にできるのは新事業進出枠だけで、その新事業進出枠は補助額の下限が750万円です。補助率1/2なら、投資総額が1,500万円以上の計画でないと申請できません。
ここで見落とされがちなのが資金繰りです。補助金は後払いなので、一度1,000万円全額を支払う必要があります。交付決定日より前に発注・契約した経費は対象外なので、発注は交付決定の後です。実施期間は交付決定から最長10か月(新事業進出枠は14か月)あり、入金はその後の実績報告と確定検査を経てからになります。交付決定から入金まで1年前後かかる前提で計画しましょう。自己資金で足りなければ、公庫や制度融資のつなぎ融資を先に組むのが安全です(立替資金ガイドに頼み方をまとめてあります)。「500万円もらえる」ではなく「1,000万円立て替えて、後から500万円戻る」。この語順で資金計画を立てましょう。
リースや中古で入れる場合
厨房機器をリースで入れたい店は、リース会社との共同申請を検討しましょう。ファイナンス・リース取引に限り、リース会社が払う機械装置・システムの購入費を補助の対象にでき、補助金はリース会社に交付されます。その代わり、店がリース会社に払うリース料から補助金相当分が減額される仕組みです。店が払うリース料そのものは補助対象外で、機器の見積もりは店が取ります。リース期間は処分制限期間を含むように設定する必要があり、セール&リースバックや割賦契約はこの仕組みを使えません。
中古の厨房機器も、古物商の許可を持つ中古品流通事業者3者以上から、型式と年式の入った相見積もりを取れば対象になります。補助対象になる機械装置は単価10万円(税抜)以上のものです。事務用のパソコンやタブレット、家具家電のように、ほかの用途にも使えるものは対象外です。
採択されたら終わり、ではない
この制度は採択後の義務が重いことでも知られます。申請時に3〜5年の事業計画を作り、次の目標を約束します。
- 付加価値額の成長目標。付加価値額を年平均4.0%以上伸ばす計画を立て、計画の最終年度に達成します(付加価値額=営業利益+人件費+減価償却費)
- 賃上げ目標。従業員1人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上伸ばす目標を決め、交付申請までに従業員へ表明します。最終年度に届かなければ、未達の割合に応じて補助金の返還を求められます
- 事業場内最低賃金。店でいちばん低い賃金を、毎年、地域別最低賃金より30円以上高く保ちます。下回った年は、補助金を計画年数で割った額の返還を求められます
- 事業化状況報告。補助事業が終わった年度の後から5年間で計6回、事業化の状況を報告します
飲食店にとって重いのは最低賃金の条件です。アルバイトの時給を地域別最低賃金ちょうどに合わせている店は、申請前に時給表を見直しましょう。たとえば地域別最低賃金が1,000円の地域なら、補助事業を行う店では毎年1,030円以上が必要です。
脅しではありません。目標を掲げてその通り成長するなら、これらは負担ではなく通過点です。ただ「返さなくていいお金」という言葉の印象よりずっと、経営への約束事が多い制度だとは知っておきましょう。
申請の現実:計画書が全て
事業計画の要求水準は、飲食店が使う補助金の中で最高クラスです。求められるのは市場分析、競合、数値計画、投資の技術的優位性。事業計画は電子申請システムに入力する形式で、書面審査のあと、必要に応じてオンラインの口頭審査(1事業者15分程度)があります。準備期間は3週間〜1か月を目安に見ておきましょう。
注意したいのは、事業計画は申請者自身が作ると公募要領で決められている点です。認定経営革新等支援機関(税理士・診断士等)などの助言を受けるのはかまいません。ただし作成そのものを外部に任せることは認められず、発覚すれば不採択・採択取消・交付決定取消になります。口頭審査も代表者など申請事業者自身が対応し、コンサルタントの同席はできません。
支援を頼むなら、契約の中身を先に確かめましょう。成功報酬が補助額の10〜15%の契約なら、500万円の補助で50〜75万円です。公募要領も、サービス内容とかけ離れた高額な成功報酬を請求する業者や、経費の水増しを持ちかける業者に注意するよう呼びかけています。「採択保証」「実績100%」を謳う業者は避けましょう。補助金に保証はあり得ません。
飲食店が新制度で狙える2つの型
「サービス業も対象」と言われても、新制度でどんな計画なら対象になるのか。公募要領に並ぶ対象外の例から逆算すると、飲食店の計画は2つの型に整理できます。
型1:店の外に新しい客層をつくる。店内飲食は「席数×回転×営業時間」が売上の天井です。急速冷凍・真空包装・製造ラインへの投資で新しい商品をつくり、来店客とは違う客層(通販の個人客、卸先の小売店や飲食店)へ売る計画なら、新事業進出枠の「新しい製品」と「新しい市場」を説明しやすくなります。反対に、いまの料理を冷凍して同じ常連客に売るだけでは、市場が同じとみなされるおそれがあります。誰に売るのかを先に決めましょう。
型2:店の技術で新しいサービスを開発する。仕込みのレシピや調理技術を生かし、同じ地域の同業者にまだ広まっていない新商品・新サービスを開発する計画です。革新的新製品・サービス枠は機械装置・システムの導入が必須で、補助の下限は100万円なので、数百万円規模の投資でも申請できます。
セントラルキッチンや自動調理機器で仕込みの手間を減らす計画は、いまの事業のプロセス改善にあたり、新制度では対象外です。人手不足の解消が目的なら省力化投資補助金が合います。「タレの仕込みに毎朝3時間」という悩みは、この制度ではなく省力化の制度で解決しましょう。
計画書に入れる5つの要素
- 現状の制約。何が売上・利益の天井になっているかを数字で(席数、仕込み時間、廃棄率)
- 投資の中身と新しさ。なぜその設備か。いまの商品や競合と何が違うか
- 市場とターゲット。新商品・新サービスは誰に売るのか。いまの客層とどう違うか。市場規模の根拠
- 数値計画。3〜5年の売上・利益・付加価値額(年平均4.0%以上)・1人当たり給与(年平均3.5%以上)。実現の道筋つきで
- 実施体制とスケジュール。誰が・いつまでに・どう回すか。1人経営なら外部の支援体制も
この5点が揃って、ようやくスタートラインです。逆に言えば、5点を自分の言葉で埋められない段階では、まだこの制度の出番ではありません。
スケジュール感も押さえておきましょう。新制度の第1回は2026年6月29日に公募が始まり、申請受付は9月30日から、締切は10月30日18時です(当初の9月30日締切から延びました)。採択発表は2027年1月頃の予定で、締切から約3か月かかります。採択の後に交付申請と交付決定があり、発注できるのはその後です。次回以降の日程は公式サイトの公募スケジュールで確かめましょう。設備の納期(大型機器は数ヶ月待ちもある)も足すと、思っているより1年は早く動く必要があります。
申請前チェックリスト
- 投資規模は数百万円以上か(それ未満なら持続化補助金の方が現実的)
- 「この投資でどんな新商品・新サービスを、誰に売るか」を3分で語れるか
- 3〜5年の数値計画(売上・利益・人件費)を数字で出せるか
- 1人当たり給与を年平均3.5%以上上げる人件費の余力があるか
- 店でいちばん低い時給が、地域別最低賃金より30円以上高いか
- 全額立替の資金調達めどはあるか(融資の事前相談を先に)
- gBizIDプライム取得済みか(オンライン申請なら最短即日、郵送なら最大1か月)。一般事業主行動計画を「両立支援のひろば」で公表したか(1〜2週間かかる)
- 採択後5年間・計6回の事業化状況報告を続ける事務体制はあるか(1人経営なら税理士との分担を先に決める)
つなぎ融資は「採択前」に相談を始める
大型案件で意外と知られていない実務が、融資相談のタイミングです。採択されてから銀行に駆け込むのではなく、申請準備と並行して公庫や取引銀行に「採択されたらつなぎ融資をお願いしたい」と伝えておくのが正解です。新制度では、金融機関から資金提供を受けて補助事業を行う場合、その金融機関に事業計画を確認してもらい、「金融機関による確認書」を申請時に添付することが要件になりました。自己資金だけで行うなら不要ですが、融資を使う店は申請準備の段階で相談を始めないと、この書類が間に合いません。事業計画は融資審査の資料にもそのまま使えるので、二度手間になりません。この流れを知っているだけで、資金繰りの不安はかなり軽くなります。
新しい商品や客層に本気で踏み出す店にとって、大きな支えになる制度です。迷っている段階なら、まず下の公募状況と基礎ガイドで全体像を確かめましょう。
参考・出典
現在の公募状況
現在、この制度に関連する公募が5件募集中です(2026年10月19日時点・毎朝自動更新):
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金
中小企業の新事業進出・海外展開・高付加価値事業進出を支援。飲食店も対象の可能性があるが、条件詳細が不明瞭。
【経済産業省】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(20次締切)
飲食店を含むサービス業の設備投資・IT導入・新事業展開を支援。最大3,500万円、補助率1/2~2/3。小規模事業者対象。
【経済産業省】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(21次締切)
飲食店を含むサービス業が対象。設備・IT導入で生産性向上を支援。補助率1/2~2/3、上限4,000万円。
【経済産業省】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(22次締切)
飲食店を含む中小企業が、働き方改革やインボイス対応等のため設備投資・IT導入を行う場合、補助率1/2~2/3で支援します。
【経済産業省】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(23次締切)
飲食店を含むサービス業が対象。設備投資やIT導入で生産性向上を図る場合、補助率1/2~2/3で支援を受けられる制度。
設備投資に使える制度は、どの地域に多いか
2026年10月19日時点で該当する172件を地域別に数えました。うち全国対象が25件で、これはどの地域の飲食店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。
| 都道府県 | 該当する制度 | その地域の一覧 |
|---|---|---|
| 北海道 | 12件 | 北海道の飲食店向け制度 |
| 東京都 | 12件 | 東京都の飲食店向け制度 |
| 福岡県 | 8件 | 福岡県の飲食店向け制度 |
| 熊本県 | 7件 | 熊本県の飲食店向け制度 |
| 埼玉県 | 6件 | 埼玉県の飲食店向け制度 |
| 大分県 | 6件 | 大分県の飲食店向け制度 |
| 佐賀県 | 5件 | 佐賀県の飲食店向け制度 |
| 岩手県 | 5件 | 岩手県の飲食店向け制度 |
| 新潟県 | 5件 | 新潟県の飲食店向け制度 |
| 福島県 | 5件 | 福島県の飲食店向け制度 |
上限額が公表されている123件で見ると、中央値は500万円、最大は10億円です。下から4分の1は100万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。
直近の締切は中小企業等グループ補助金(東日本大震災)についての2026年10月23日(あと4日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。
よくある質問
Q. 飲食店でも対象になりますか?
A. はい。2026年からは「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」として新事業進出補助金と一体で運用されており、飲食店を含むサービス業も対象です。ただし、いまの業務のプロセス改善だけや設備を入れるだけの計画は対象外です。新製品・新サービスの開発(革新的新製品・サービス枠)か、新しい市場への進出(新事業進出枠)として計画を組む必要があります。
Q. 持続化補助金とどちらを選ぶべきですか?
A. 投資規模と中身で選びます。数十万〜百数十万円の販路開拓なら持続化補助金、数百万円以上の投資で新商品・新サービスの開発や新しい客層への進出をする計画なら新事業進出・ものづくり商業サービス補助金が候補です。仕込みの省力化が目的なら省力化投資補助金も比べましょう。
Q. 採択率はどのくらいですか?
A. 旧ものづくり補助金の採択率は公募回により変動し、たとえば第21次は34.1%(1,872件中638件)でした。2026年からの新制度は第1回の締切が2026年10月30日で、採択率の実績はまだありません。計画書の要求水準が高く、無準備で通る制度ではありません。
Q. 賃上げの要件があると聞きました
A. はい。従業員1人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上伸ばすことと、事業場内最低賃金を毎年、地域別最低賃金より30円以上高く保つことが要件です。未達の場合は補助金の返還を求められる仕組みがあります。人件費計画とセットで考える必要があります。
Q. 申請は自分でできますか?
A. 自分で作ることが前提です。公募要領では、認定経営革新等支援機関などの助言は受けてよいものの、事業計画の作成は申請者自身が行うこととされ、申請者以外が作成した場合は不採択や採択取消の対象になります。口頭審査も申請事業者自身が対応します。支援を頼むときは、成功報酬などの契約条件を先に確かめましょう。
他の定番制度
公開 2026年7月19日 / 最終更新 2026年10月7日 / この記事は、公的機関が公開する一次資料をもとにホジョナビ編集部が作成したもので、執筆補助にAIを使用。金額・要件・締切は各制度の公募要領が常に優先。制作方針と情報源
更新履歴(3件)
- gBizIDプライムの発行期間を「1週間程度」から、オンライン申請なら最短即日、郵送なら最大1か月に修正
- 旧ものづくり補助金の採択率を「おおむね3〜5割」から第21次の実績(34.1%、1,872件中638件)に更新、参考・出典を追加
- 2026年からの新制度「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の2枠と補助上限・賃上げ要件に更新、事業計画は申請者自身が作る決まりと第1回締切(10月30日)を追記
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