新事業進出・ものづくり補助金(新事業進出枠): 介護の多角化に大型資金を
介護報酬は公定価格です。つまり売上の天井は3年ごとの改定で国が決めるということです。この構造の中で成長を続けたい事業者に残された道が、「介護の隣」への展開です。障害福祉、共生型、保険外サービス。その一歩には建物と設備の大型投資が伴うことが多く、そこに数千万円級の支援を用意しているのが、新事業進出・ものづくり補助金の「新事業進出枠」です。中小企業新事業進出補助金は公募を終え、新規の受付はこの制度に移りました。
制度の骨格
| 位置づけ | 新事業進出・ものづくり補助金(革新的新製品・サービス枠/新事業進出枠/グローバル枠)のうち新事業進出枠。既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援。中小企業新事業進出補助金の新規受付はここに移った |
|---|---|
| 規模 | 補助下限750万円。上限は従業員1〜20人2,500万円、21〜50人4,000万円、51〜100人5,500万円、101人以上7,000万円(賃上げ特例で3,000万〜9,000万円)。補助率1/2(地域別最低賃金引上げ特例で2/3)。介護事業者が使える補助金の中でも大型 |
| 対象経費 | 建物費か機械装置・システム構築費のどちらかが必須。ほかに運搬費・技術導入費・外注費・専門家経費・クラウドサービス利用費・広告宣伝・販売促進費など。車両及び運搬具は対象外 |
| 要件の軸 | 製品・サービスと市場の両方が自社にとって新しいこと。付加価値額 年平均4.0%以上、1人当たり給与支給総額 年平均3.5%以上、事業場内最低賃金が地域別最低賃金+30円以上、一般事業主行動計画の公表。融資を受けるなら金融機関の確認書 |
| 実施期間 | 交付決定から14か月以内。第1回の締切は2026年10月30日18時、採択発表は2027年1月頃の予定 |
| 対象者の注意 | 中小企業者が中心。医療法人は対象外と明記、社会福祉法人は対象者の区分に入っていない |
介護の「新事業」5つの型
- 障害福祉への展開。就労継続支援・障害者グループホーム・放課後等デイなど。障害福祉は利用者が長期・若年で、介護保険とは別の報酬財源を持つ市場です。介護のノウハウと人材が活き、報酬体系のリスク分散になります。障害福祉の記事で書いた整備補助との使い分け(施設整備は福祉系交付金、新事業としての一体投資はこちら)も検討軸です
- 共生型サービス。介護保険と障害福祉の相互乗り入れ。既存デイの共生型化+改修は「新市場への進出」の説明が立ちやすい型です。人口減少地域では、対象を広げることが、稼働を保つうえで欠かせない手段にもなります
- 保険外サービス。配食事業(厨房整備)・家事支援・自費リハビリ・保険外デイ。高齢者向け配食は1食500〜700円・週3〜6日の定期需要で、利用者を積み上げる事業です(下の計算例は1日150食を前提にしています)。公定価格の外に「値付けできる事業」を持つことは、資金繰りの記事で書いた報酬入金2ヶ月遅れの構造への対策にもなります
- 地域拠点化。空きスペースの地域食堂・カフェ・見守り拠点化。週2日・1日30食の地域食堂でも、認知・紹介・採用への波及を含めた「広報投資」として、広告費に近い働きをします。単体の収益より、紹介動線と採用ブランドへの投資という側面が強い型です
- 施設の業態転換。稼働率6割を切ったデイの転換は「守りの新事業」です。改修1,000〜2,000万円規模の投資判断になります。新事業進出枠は補助下限750万円なので、補助対象経費が1,500万円に届かない改修は対象になりません。小規模多機能の記事の市町村公募と重ねて設計しましょう
計算例: 配食事業への進出
- デイの厨房を拡張して高齢者向け配食を始めるケース。厨房改修・調理設備・配食管理システムで総投資2,000万円、補助率1/2で自己負担1,000万円とします(補助額1,000万円で下限750万円を超えます)。配送車は車両なので補助対象外で、自己資金か融資で別に用意します
- 1食600円×1日150食×週6日(年52週)で年商約2,800万円。食材・人件・配送のコストを引いた営業利益率10%なら年280万円です。投資回収は補助ありで約3.6年、なしなら約7年。補助の有無が事業判断そのものを変える規模感です
- 配食は利用者家族との接点・入口サービスとしても機能し、本業のデイ・訪問への紹介動線になります。単体収支+動線価値で評価しましょう
- この規模の計画書は事業計画書の記事の型に加え、金融機関の融資(自己負担分)と金融機関による確認書まで一体で組む必要があります。認定支援機関などの助言は受けられますが、計画書は申請者自身が作ります(申請者以外が作成すると不採択・取消の対象です)。書類の重さは持続化補助金の数倍と覚悟してください
申請前の自己診断: この制度で良いか
- 投資規模は1,500万円を超えるか。新事業進出枠は補助下限750万円・補助率1/2なので、補助対象経費が1,500万円に届かないと申請できません。届かないなら持続化・省力化・ICT系のほうが釣り合います。制度は投資規模から逆引きで選ぶのが正解です
- 「新事業」の説明が立つか。既存介護事業の増床(提供量を増やすだけ)や、既存と同じ市場の一部だけを狙う計画は、新事業進出枠に該当しない例として公募要領に挙がっています。市場・商品・提供方法のどこが「新」かを一行で言えるかどうかが出発点になります
- 財務体力はあるか。補助は後払いです。自己負担分+立替の資金調達(つなぎの記事)まで含めて金融機関と組めるかは、実行可能性の審査でも見られます
- 人はいるか。新事業の責任者・必要資格(配食なら営業許可、障害福祉ならサビ管等)の当てがあるか。計画書の「体制」欄は絵に描いた餅が最も見抜かれる場所です
申請の段取り: 大型ゆえの長期戦
- 6ヶ月前。事業構想と投資規模の確定。金融機関への打診(自己負担分の融資見込みと確認書)と、助言を受ける認定支援機関などの相談先を決めましょう
- 3〜4ヶ月前。事業計画書の作成。市場分析・数値計画・体制について、計画書の記事の型を大型版に拡張します。gBizIDプライムは初日に。一般事業主行動計画を「両立支援のひろば」に公表する手続き(掲載まで1〜2週間)もこの時期に済ませましょう
- 2ヶ月前。見積もり取得(相見積もり)・建物系は図面と工事業者の当たり
- 公募期間。事務局の電子申請システムで、締切1週間前の提出を目標にしましょう
- 採択後。交付申請→交付決定→着工。建物投資は実施期間(交付決定から14か月以内)との整合が最大の管理ポイントです
なお、大型の投資では建築確認・消防・保健所など複数の窓口が関わり、それぞれの協議に想定外の時間がかかります。設計事務所を早めに入れて、行政協議のスケジュールを工程表に落としておくと、公募の締切に間に合わないという事態を避けられます。
よくある誤解
- 「介護は対象外の制度でしょ」。営利法人の介護事業者は堂々と対象です。対象外になりがちなのは法人形態(社福・医療法人)の問題で、事業内容の問題ではありません
- 「大型補助金は大企業向け」。中小企業向けの制度です。従業員20人の介護会社が2,000万円の展開投資をする、まさにその規模のための設計です
- 「採択されれば資金繰りは安心」。補助金は後払いで、建物投資は先払いです。採択はゴールではなく、金融機関との本格的な相談の始まりになります。交付決定から入金までの長い期間を、融資とセットで乗り切る制度です
検討チェックリスト
- ☐ 法人形態が対象か公募要領で確認したか(社福・医療法人は注意)
- ☐ 投資規模から制度選択(本制度か持続化等か)をしたか
- ☐ 「何が新事業か」を一行で説明できるか
- ☐ 自己負担分の資金調達を金融機関と相談したか
- ☐ 新事業の責任者・必要資格の当てはあるか
- ☐ 融資を受ける場合、金融機関による確認書を依頼したか
- ☐ 実施期間と工期(建物系は6ヶ月超も)の整合を確認したか
- ☐ 不採択時の代替ルート(融資・持続化)を描いたか
- ☐ 新事業の許認可(飲食店営業・障害福祉指定等)の取得スケジュールを引いたか
- ☐ 新事業の責任者候補と既存事業の穴埋め体制を決めたか
- ☐ 公募スケジュールを月次まとめ・新着ページで監視する体制にしたか
- ☐ 付加価値額・賃上げ要件の達成シミュレーションをしたか
- ☐ 既存事業への影響(人員・資金の分散リスク)を評価したか
不採択でも道は残ります。この規模の計画書は金融機関の融資審査資料としてそのまま使え、規模を落として持続化補助金+融資の組み合わせに切り替える道も、次回公募での再挑戦もあります。採択率の記事で書いた「計画書は資産」の考え方は、大型制度ほど強く当てはまります。20時間かけた計画書は、どの道を選んでも無駄になりません。
まとめると、新事業進出・ものづくり補助金の新事業進出枠は、介護経営が公定価格の天井を超えるための「隣の市場への橋」に架かる大型支援です。橋は立派ですが、渡るには計画・資金・人の三点セットが要ります。まず投資規模と法人形態が対象に入るかを確認しましょう。そこを通るなら、介護事業者が使える中でも大型の資金がこの制度にあります。
参考・出典
現在の公募状況
2026年10月19日時点で、この制度の募集中の公募回はデータベースにありません。新しい公募が始まれば毎朝の自動巡回でここに掲載されます。新着ページもあわせてご確認ください。
開業に使える制度は、どの地域に多いか
2026年10月19日時点で該当する57件を地域別に数えました。うち全国対象が7件で、これはどの地域の介護・福祉事業所でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。
| 都道府県 | 該当する制度 | その地域の一覧 |
|---|---|---|
| 東京都 | 6件 | 東京都の介護・福祉事業所向け制度 |
| 福島県 | 5件 | 福島県の介護・福祉事業所向け制度 |
| 埼玉県 | 4件 | 埼玉県の介護・福祉事業所向け制度 |
| 兵庫県 | 2件 | 兵庫県の介護・福祉事業所向け制度 |
| 千葉県 | 2件 | 千葉県の介護・福祉事業所向け制度 |
| 熊本県 | 2件 | 熊本県の介護・福祉事業所向け制度 |
| 京都府 | 2件 | 京都府の介護・福祉事業所向け制度 |
| 北海道 | 2件 | 北海道の介護・福祉事業所向け制度 |
| 新潟県 | 2件 | 新潟県の介護・福祉事業所向け制度 |
| 福岡県 | 2件 | 福岡県の介護・福祉事業所向け制度 |
上限額が公表されている34件で見ると、中央値は100万円、最大は5億円です。下から4分の1は25万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。
直近の締切は【募集期間延長】「さかいでからはじめる創業支援補助金」の募集…の2026年10月30日(あと11日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。
よくある質問
Q. 新事業進出補助金は今どうなっていますか?
A. 既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への進出を、建物費・機械装置などの大型投資で支える補助金です。中小企業新事業進出補助金は公募を終え、新規の受付は「新事業進出・ものづくり補助金」の新事業進出枠に移りました。新事業進出枠は補助下限750万円、上限は従業員規模別に2,500万〜7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円)、補助率1/2です。要件・金額は公募回で変わるため最新の公募要領で確認しましょう。
Q. 介護事業所はどんな使い方ができますか?
A. 介護保険事業から障害福祉サービスへの展開(就労支援・グループホーム等)、共生型サービスの整備、保険外サービス(配食・家事支援・自費リハ)の立ち上げ、空きスペースを使った地域食堂・デイの多角化などが「新事業」の型になります。既存の介護事業の単純な増床(提供量を増やすだけ)は、新事業進出枠に該当しない例として公募要領に挙がっている点に注意が必要です。
Q. 要件は厳しいですか?
A. 大型の制度なので、要件もそれ相応です。付加価値額の年平均4.0%以上の成長、1人当たり給与支給総額の年平均3.5%以上の増加、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高く保つこと、一般事業主行動計画の公表などが要件で、給与と最低賃金の要件は未達だと補助金の返還があります。金融機関から資金を借りて実施する場合は、金融機関による確認書も必要です。数千万円級の投資計画と、それを実行できる財務体力・人員体制が前提の制度と考えましょう。
Q. 社会福祉法人でも使えますか?
A. 中小企業向け制度のため、対象は株式会社などの中小企業者が中心です。新事業進出・ものづくり補助金の第1回公募要領では、医療法人や一般社団法人は対象外と明記され、社会福祉法人は補助対象者の区分に入っていません(持続化補助金と同じ構図です)。株式会社・合同会社で介護事業を営む事業者が主な想定対象です。自法人の形態で対象になるかは、公募要領の対象者欄で必ず確認しましょう。
Q. 小規模な多角化なら他の制度が良いですか?
A. はい。数百万円までの投資なら持続化補助金・小規模な設備なら省力化やICT系のほうが、書類負担と規模感が釣り合います。この制度は「建物を触る・機械装置を大きく入れる」レベルの大型展開向けで、補助下限750万円・補助率1/2なので、補助対象経費が1,500万円に届かない計画は申請できません。車両は対象外です。投資規模から制度を選ぶ順番で考えましょう。
他の定番制度
公開 2026年8月16日 / 最終更新 2026年10月5日 / この記事は、公的機関が公開する一次資料をもとにホジョナビ編集部が作成したもので、執筆補助にAIを使用。金額・要件・締切は各制度の公募要領が常に優先。制作方針と情報源
更新履歴(1件)
- 制度名を「新事業進出・ものづくり補助金(新事業進出枠)」に更新、補助下限750万円・上限2,500万〜7,000万円と付加価値額・賃上げの要件を追記、車両は対象外と修正
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