飲食店版

賃上げ要件: 約束の重さを知って、賢く使う

2026年9月3日更新 / 飲食店主向けガイド

ナビコッコ
賃上げ要件を「余計な条件」と見るか「どうせやる賃上げに国が値段を付けてくれた」と見るか。最低賃金が毎年上がる時代、数年内の賃上げはほぼ確定路線です。だったら、その確定路線を申請書に書いて、上限アップや加点に換金するほうが賢い——視点ひとつの話です。

補助金の公募要領を読んでいると、「賃上げ」の文字が年々増えています。必須要件、加点、上限アップ——形は違えど、国のメッセージは一貫しています。「支援するから、賃金に回してほしい」。この要件を面倒な条件と見るか、どうせやる賃上げの換金装置と見るか。差がつくのは、要件の中身を正確に知っているかどうかです。

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まず分類: 賃上げ要件の3タイプ

①必須要件賃上げ計画がないと申請不可。大型補助金に多い。未達時の返還規定とセット
②加点賃上げ表明で審査点が上乗せ。当落線上では実質的な決め手になる
③上限アップ賃上げすると補助上限額が引き上がる。省力化投資補助金などの設計

同じ「賃上げ」でも約束の重さが違います。①③は破ると金銭的な帰結(返還・減額)があり、②は取り消しまでの設計は少なめ——自分が結ぼうとしている約束がどれかを、まず公募要領で特定しましょう。

指標の違い: 最低賃金型と総額型

  • 事業場内最低賃金 — 「自社で一番低い時給」を基準にする型。例えば「地域別最低賃金+50円以上」。時給1,050円のパートが1人いる店なら、その1人が基準です。パート1人の時給を上げれば達成できることもあり、小さな店に相性の良い指標です。用語の正確な意味は用語集で30秒確認を
  • 給与支給総額型 — 会社全体の給与総額を「年率+2%」等で増やす型。年間給与総額1,500万円の店なら年30万円の増額が目安です。昇給でも採用増でも達成できる柔軟さがある一方、離職で総額が減ると未達リスクになります
  • 両方を課す制度もあります。自社の数字(現在の最低時給・年間給与総額)を先に書き出してから要領を読むと、達成の難易度が具体的に見えます
  • 計算の起点日・判定日(申請時点か事業完了時点か等)も制度ごとに違う要注意ポイントです。公募要領の読み方の「基準日」検索を思い出してください

計算例: 同じ賃上げを二度活かす

  • パート3人の時給を1,050円→1,100円に上げる店を考えます。人件費増は3人×50円×月100時間=月1万5,000円・年18万円です
  • この賃上げを業務改善助成金に載せれば、設備投資(券売機・食洗機等)の費用の相当部分が助成されます——賃上げそのものが申請の鍵になる制度です
  • 同じ賃上げ計画は、省力化投資補助金の上限アップや持続化補助金の特別枠・加点の材料としても使えます(併用ルールは要確認)
  • さらに毎年10月の最低賃金改定を先取りする形なら、「どうせ半年後に上げる賃金」を制度の要件充足に前倒しで使うだけ——実質的な追加コストは前倒し期間の数ヶ月分に圧縮されます
  • この設計の考え方は賃上げ戦略の記事で書いた「最低賃金の年次リズムに乗る」の応用編です

守れる約束の作り方

  1. 現状を数字にする — 全スタッフの時給一覧・年間給与総額・最低時給の人。ここが曖昧なまま表明するのが未達事故の始まりです
  2. 最低賃金の改定を織り込む — 毎年の改定幅を保守的に見積もり、要件水準と重ねる。改定で自動達成できる範囲なら、約束のリスクはほぼゼロです
  3. 離職・採用の変動を見る — 総額型は人の出入りで揺れます。ギリギリの計画より、1人辞めても達成できる余白を
  4. 例外規定を読む — 業績悪化時・天災時の取り扱い(返還免除の枠組み)があるか。ある制度とない制度では、約束の怖さが違います
  5. 迷ったら要件なしの枠で賃上げ要件は義務ではなく選択肢です。守れる自信がなければ、通常枠で申請する誠実さが、結局いちばん安全です

制度別の賃上げ要件マップ

業務改善助成金賃上げが制度の本体。事業場内最低賃金の引き上げ×設備投資の助成
省力化投資補助金上限アップ型。賃上げ表明で補助上限が引き上がる設計
持続化補助金特別枠・加点で賃上げが登場する回がある。通常枠は要件なし
大型補助金(新事業進出等)必須要件型が基本。給与総額の年率成長+未達時の返還規定に注意

※各制度の要件は公募回で変わります。このマップは「どのタイプが多いか」の地図として使い、必ず最新の公募要領で確認してください。制度側の詳細は業務改善助成金省力化投資補助金の解説へ。

よくある誤解

  • 「賃上げ要件は大企業向けの話」 — 逆です。事業場内最低賃金型はパート1人の時給改定で達成できる設計で、むしろ小規模ほど使いやすい。規模で諦める前に、指標のタイプを確認しましょう
  • 「表明だけして達成できなくても、ばれない」 — 賃金台帳・実績報告で確認されます。未達の返還は金額だけでなく、以後の申請への信頼にも響く——受給後ルールの記事で書いた「無断・虚偽だけがペナルティ」の原則がここでも生きています
  • 「賃上げ分だけ損」 — 賃上げは定着・採用力への投資でもあります。時給50円の差が応募数を変える市場で、「国の支援つきで賃上げできる機会」を損と呼ぶかどうか——計算は人件費だけで閉じません

実務の時系列: 表明から証明まで

  1. 申請時 — 賃上げの表明(誓約書・計画への記載)。この時点の賃金台帳が「基準値」の証拠になるため、直前の駆け込み賃下げ等は論外です
  2. 事業実施中 — 表明どおりの賃金改定を実行。改定日・金額を雇用契約書・賃金台帳に反映し、記録を残します
  3. 実績報告・判定日 — 賃金台帳・出勤簿で達成を証明。実績報告の記事で書いた「人件費系は日頃の労務書類が生命線」がそのまま当てはまります
  4. 報告後 — 制度により、達成状況の事後フォロー(状況報告)が数年続く設計もあります。賃金を下げると遡って問題になる場合があるため、返還条項と一緒に事後義務も読んでおきましょう

数字の例: 上限アップの損得勘定

  • 省力化投資補助金型の「賃上げで上限1.5倍」を考えます。上限200万円→300万円になるなら、補助の増分は最大100万円です
  • 一方、要件達成のコストがパート3人×時給50円×年200時間=年3万円×3人=年9万円なら、数年分を払っても増分がはるかに大きい——この倍率なら「使う」が合理的です
  • 逆に、正社員5人の給与総額を年2%上げる型で年60万円の恒久コストに対し、補助の増分が30万円なら——単年の計算では合いません。定着・採用への効果まで含めて判断する案件になります
  • 損得の分水嶺は「どうせやる賃上げか、要件のためだけの賃上げか」。前者なら常に得、後者なら電卓を叩く——この一行が結論です

申請前チェックリスト

  • ☐ 要件のタイプ(必須/加点/上限アップ)を特定したか
  • ☐ 指標(事業場内最低賃金/給与総額)と判定日を確認したか
  • ☐ 全スタッフの時給一覧と給与総額を書き出したか
  • ☐ 未達時の返還・減額規定と例外規定を読んだか
  • ☐ 毎年10月の最低賃金改定と重ねる設計にしたか
  • ☐ 守れる自信がない場合、要件なしの枠を選んだか
  • ☐ 表明前の賃金台帳(基準値の証拠)を確認したか
  • ☐ 事後の状況報告義務の有無を確認したか
  • ☐ 最低賃金改定(毎年10月前後)の想定幅を計画に織り込んだか
  • ☐ 同じ賃上げを複数制度(助成金+補助金の枠)で活かせないか確認したか

結論。賃上げ要件は「国と結ぶ約束」です。約束の重さ(タイプ)と中身(指標)を正確に知り、どうせやる賃上げと重ねて設計すれば、これほど使い勝手の良い上乗せはありません。知らずに結べば重荷、知って結べば換金装置——差は要領を読む30分だけです。

設備投資に使える制度は、どの地域に多いか

2026年9月3日時点で該当する306件を地域別に数えました。うち全国対象が47件で、これはどの地域の飲食店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている221件で見ると、中央値は200万円、最大は10億円です。下から4分の1は50万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は【追加募集のお知らせ】第3次 富山県中小企業トランスフォーメ…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 賃上げ要件とはなんですか?

A. 補助金の支給条件として、従業員の賃金引き上げを求める仕組みです。大きく3タイプあり、①賃上げしないと申請できない「必須要件」②賃上げを表明すると審査で有利になる「加点」③賃上げすると補助上限が上がる「上限アップ」。制度ごとにどのタイプか・水準はいくらかが違うため、公募要領の確認が出発点です。

Q. 何をどれだけ上げるのですか?

A. 指標は主に2つです。「事業場内最低賃金」(自社で一番低い時給)を地域別最低賃金+一定額以上にする型と、「給与支給総額」を年率数%で増やす型。前者はパート1人の時給改定で達成できることもあり、後者は人員増でも達成できる——同じ賃上げでも計算の性質がまるで違います。

Q. 達成できなかったら返還ですか?

A. 制度によります。必須要件・上限アップ分は未達時に返還・減額の規定が置かれるのが一般的で、加点タイプは返還までは求められない設計もあります。「天災や業績悪化時の例外規定」の有無も含め、公募要領の返還条項を申請前に読むのが鉄則です。

Q. 最低賃金の引き上げとはどう関係しますか?

A. 地域別最低賃金は毎年10月前後に改定され、近年は大幅な引き上げが続いています。つまり「数年内の賃上げ」は多くの店で確定路線です。どうせ上げる賃金なら、業務改善助成金のように賃上げそのものに助成が出る制度や、賃上げで上限が上がる補助金と重ねて「同じ賃上げを二度活かす」設計が合理的です。

Q. 一人で経営していて従業員がいない場合は?

A. 賃上げ要件は従業員の賃金が対象のため、雇用ゼロの一人経営では使えない(該当しない)制度設計が基本です。業務改善助成金のように賃上げが制度の本体である場合は対象外になります。一人経営は賃上げ要件のない制度・枠を選ぶのが正解です。

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