飲食店の棚卸しのやり方:どこまで数えて、どう帳簿につけるか
棚卸しは「月末に在庫を数えて金額にする」だけの作業ですが、飲食店の実務ではどこまで数えるかの線引きで迷い、結局やらなくなりがちです。このページでは、税務的に正しく、かつ月末30分で終わる現実的な型を示します。
なぜ棚卸しをするのか: 原価率が狂う仕組み
その月に使った食材費(売上原価)は、仕入額そのものではありません。
- 例: 月商300万円の店。当月仕入100万円、月初在庫20万円、月末在庫30万円なら、売上原価は20+100−30=90万円(原価率30%)
- 棚卸しをせず仕入額をそのまま原価にすると、原価率33.3%と3.3ポイントも過大に見える。月末にまとめ買いした月は「原価率が悪化した」ように見え、逆の月は「改善した」ように見える。数字が仕入れのタイミングに振り回されるのが、棚卸しをしない経営の実態です
どこまで数えるか: 現実的な線引き
| 厳密に数える | 肉・魚・酒類・冷凍在庫など単価が高い/金額が大きいもの。ボトル単位・パック単位で全数 |
|---|---|
| 概算でよい | 調味料・油・粉類・乾物。開封済みは目分量(0.5袋・1/3缶)。毎回同じ基準なら精度は十分 |
| 省略できる場合がある | 割り箸・容器・洗剤などの消耗品。未使用分も本来は棚卸しの対象だが、国税庁の決算の手引きでは、通常の年に比べて特に増えていない消耗品は棚卸しを省略しても差し支えないとされている |
| 忘れがちな対象 | 冷凍庫の奥・仕込み済みの半製品(スープ・タレ・仕込みチャーシュー)・イベント用の買い置き酒 |
金額の付け方
- 基本は最終仕入原価法(最後に仕入れた単価×数量)。個人事業主が届出なしで使える法定の評価方法で、実務も一番簡単です
- 仕込み済み半製品は「投入した材料費の概算」でOK。スープ1寸胴=材料費◯円、と一度決めて使い回す
- 税込経理なら税込単価で統一。仕入帳(請求書)の単価をそのまま使えば迷いません
月末30分で終わる型
| 準備(初回のみ) | 棚卸表を作る: 場所別(冷蔵庫1・冷凍庫・ドライ棚・酒棚)に主要品目を列挙。スマホのスプレッドシートで十分 |
|---|---|
| 月末営業後 20分 | 場所ごとに上から順に数えて記入。2人いれば読み上げ役と記入役で半分の時間に |
| 翌日 10分 | 単価を入れて合計。先月の在庫額・仕入額と並べて原価率を計算 |
| コツ | 数える順路を固定する(毎月同じ動線)。「数え漏れの場所」が消えます |
仕訳の例
- 月末在庫30万円の計上: (借方)商品 300,000 /(貸方)期末商品棚卸高 300,000
- 翌月初の振り戻し: (借方)期首商品棚卸高 300,000 /(貸方)商品 300,000
- 個人の帳簿では、資産側の科目は「商品」を使うのが一般的です。青色申告決算書の貸借対照表では、これを「棚卸資産」の欄にまとめて書きます。科目名や月次の入れ方は会計ソフトによって違うので、使っているソフトの表記に合わせましょう
- freee会計は[確定申告]メニューの[在庫棚卸]に在庫額を入れると仕訳が自動で作られ、月末ごとの登録もできます。弥生会計は振替伝票で上の形の仕訳を自分で入力します。確定申告ガイドもあわせてどうぞ
業態別のミニマム設計: どこまで手を抜けるか
| バー・スナック | 在庫の大部分は酒。ボトルの本数管理だけ厳密にやれば棚卸しはほぼ完成。開栓ボトルは0.5本単位で |
|---|---|
| ラーメン店 | 金額の柱は肉(チャーシュー)・スープ材料・麺。この3系統+冷凍庫で在庫金額の大半を占める。調味料は月次概算で十分 |
| カフェ | 豆・乳製品・冷凍スイーツが柱。豆は開封袋をグラム目分量で。ロスの主戦場は賞味期限の短い乳製品 |
| 居酒屋・食堂 | 品目が多く一番大変な業態。ABC分析で金額上位の品目(2割程度が目安)を厳密に、残りは棚単位のざっくり評価で回す |
共通原則は「金額の大きい品目を厳密に、残りは同じ基準の概算で」。品目数でいえば上位2割程度が目安です。完璧を目指して挫折するより、粗くても毎月続く型のほうが役に立ちます。
棚卸しが教えてくれること(原価率の次)
- ロスの発見。帳簿上あるはずの在庫がない=廃棄・出しすぎ・(残念ながら)持ち出し。差異が続く品目は対策対象
- デッドストック。3ヶ月動いていない在庫は現金が棚で眠っている状態。メニュー化か処分かの判断材料に
- 発注の適正化。在庫金額の月次推移が見えると「持ちすぎ」が数字でわかる。目安は在庫金額≦月仕入額の1/3程度(業態で変動)
- 値付けの根拠。正確な原価率が出て初めて、値上げの判断も「なんとなく苦しい」ではなく「原価率が3ポイント上がったから」と数字で説明できるようになります。棚卸しは価格戦略の基礎でもあります
棚卸しと発注をセットにする:30分を二毛作にする
月末に在庫を数えるなら、その場で来月の発注量も決めてしまうのが賢いやり方です。「数える→残量が少ない品に付箋→翌朝そのまま発注」で、棚卸しの30分が発注ミスの予防を兼ねます。数字がたまってくると「この品は月に◯個使う」が見えてきて、まとめ買いの適量も分かります。棚卸しは在庫を数える作業ではなく、店の消費ペースを測る計測器です。そう考えると、月末の30分の意味が変わります。
保管の型が棚卸しを速くする: 先入れ先出しと定位置
- 先入れ先出し(FIFO)。新しい仕入れを奥、古いものを手前に。鮮度管理と棚卸しの正確さは同じ習慣から生まれます。棚卸しのたびに「賞味期限切れの発見」がある店は、並べ方に問題があります
- 定位置管理。品目ごとに置き場所を固定し、棚に品名ラベルを貼る。棚卸表の並び順を棚の物理的な並びと一致させると、数える速度が上がります
- 小分け・開封日の記入。開封済みに日付を書くマスキングテープ運用は、衛生管理(HACCP)と棚卸しの両方に役立つ、一石二鳥の習慣です
試算例:棚卸しで値付けの前提のずれを見つける
数字の使い方を、架空の居酒屋で試算します。レシピから出した原価率が31%のはずなのに、月次棚卸しで実際の原価率を出すと34%だったとします。差の3ポイントは、月商300万円なら月9万円です。原因として考えられるのは、①刺身のポーションが人によって2割違う ②ハイボールの氷なし提供(薄まる分を濃くしていた)③賞味期限切れの定期廃棄、といったものです。ポーションの計量カップ統一と発注量の見直しで差が埋まれば、月9万円は、月1,800品を売る店なら1品50円の値上げに相当します。棚卸しは税務のための作業に見えて、実際はこういう「漏れているお金」を見つける仕組みです。
年末(決算)棚卸しの追加チェック
- ☐ 12月の大量仕入れ(年末年始分)が在庫に計上されているか。税務調査で確認されやすい点です
- ☐ 締め日を12月31日の営業終了後に統一したか(1月2日に数えるなら年末年始の使用分を補正)
- ☐ 棚卸表に日付・数えた人の名前を入れたか(実在性の証拠)
- ☐ 前年と評価方法(最終仕入原価法)を変えていないか
- ☐ 半製品(仕込み済みのタレ・スープ)を忘れていないか
税務調査では何を見られるか
- 現金商売の飲食店の調査で在庫まわりはよく確認される項目です。見られるのは①期末在庫の計上漏れ(12月の大量仕入れが在庫に乗っているか)②評価方法の一貫性 ③棚卸表の実在性(後から作った形跡がないか)
- 手書きでもスプレッドシートでも、毎月の棚卸表を日付つきで残しておくこと自体が「きちんとやっている店」の証拠になります。調査の雰囲気は、そろっている書類の量で変わります
- 年末だけ在庫が異常に少ない、毎年同じ金額。こうした不自然さはすぐ見抜かれます。実際に数える習慣こそ、いちばんの備えです
楽をする道具
- 棚卸しアプリ・POSの在庫管理機能を使えば、単価マスタと掛け算が自動化されます。レジ・発注と連動するタイプが本命
- エクセル派は「品目×単価固定×数量入力だけ」のシートを一度作れば毎月使い回せます
- 在庫管理まで本格的にやるならPOSレジの在庫連動が本命。導入にはデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)も使えます
参考・出典
IT導入に使える制度は、どの地域に多いか
2026年10月19日時点で該当する199件を地域別に数えました。うち全国対象が19件で、これはどの地域の飲食店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。
| 都道府県 | 該当する制度 | その地域の一覧 |
|---|---|---|
| 東京都 | 30件 | 東京都の飲食店向け制度 |
| 福岡県 | 15件 | 福岡県の飲食店向け制度 |
| 新潟県 | 9件 | 新潟県の飲食店向け制度 |
| 埼玉県 | 9件 | 埼玉県の飲食店向け制度 |
| 北海道 | 8件 | 北海道の飲食店向け制度 |
| 熊本県 | 8件 | 熊本県の飲食店向け制度 |
| 千葉県 | 6件 | 千葉県の飲食店向け制度 |
| 鹿児島県 | 6件 | 鹿児島県の飲食店向け制度 |
| 徳島県 | 5件 | 徳島県の飲食店向け制度 |
| 栃木県 | 4件 | 栃木県の飲食店向け制度 |
上限額が公表されている169件で見ると、中央値は100万円、最大は5億円です。下から4分の1は30万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。
直近の締切は【第3回】令和8年度 海外展示会出展支援補助金の2026年10月21日(あと2日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。
よくある質問
Q. 調味料や開封済みの食材も数えるのですか?
A. 原則は在庫すべてが対象ですが、実務では「金額が大きいもの・単価が高いものを厳密に、細かい調味料は概算で」が標準的なやり方です。開封済みは残量を目分量(0.5袋など)で構いません。大切なのは毎回同じ基準で数えることです。利益計算の精度を決めるのは、精密さより一貫性です。
Q. 棚卸しは毎月必要ですか?年1回ではだめですか?
A. 税務上は決算時(個人なら12月末)の棚卸しが必須です。ただし月次でやらないと毎月の原価率が仕入れのタイミングで大きくブレて、経営数字として使いものになりません。月末閉店後の30分、主要品目だけの簡易棚卸しでも十分に価値があります。
Q. 棚卸しをしないとどうなりますか?
A. 税務上は在庫を経費に入れすぎて利益が過少になり、税務調査で指摘されやすい典型論点になります。経営上は原価率が把握できず、値付け・ロス対策・メニュー改廃の判断がすべて勘になります。
Q. 開業した年は期首在庫がありませんが、どうすればいいですか?
A. 開業初年度は期首在庫ゼロで、期末(12月末)の棚卸しだけ行えばOKです。開業時に仕入れた初期在庫は当年の仕入に計上されており、年末に残っている分を棚卸資産として翌年に繰り越す形になります。
Q. 在庫管理アプリやソフトは必要ですか?
A. 月次棚卸しだけならスプレッドシートで十分で、ソフトは必須ではありません。導入する価値があるのは、複数店舗になったとき・発注も自動化したいとき・レシピ原価まで管理したいときの3場面です。その段階ならPOS連動の在庫管理(月数千円〜)をデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)で導入する選択肢が出てきます。
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公開 2026年7月21日 / 最終更新 2026年10月4日 / この記事は、公的機関が公開する一次資料をもとにホジョナビ編集部が作成したもので、執筆補助にAIを使用。金額・要件・締切は各制度の公募要領が常に優先。制作方針と情報源
更新履歴(1件)
- 仕訳例の資産科目を「棚卸資産」から「商品」に修正、消耗品の棚卸しを省略できる条件(国税庁の決算の手引き)を追記、居酒屋の実例を架空の試算例に変更
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