介護・福祉事業所版

介護事業の開業資金と融資:売上ゼロ期間の設計

2026年9月3日更新 / 介護・福祉事業者向けガイド

ナビコッコ
介護の開業計画で一番甘く見積もられるのが「指定が下りるまでの人件費」です。人員基準を満たすには開業前から人を雇う——つまり売上ゼロで給料日が来る。ここを運転資金に入れていない計画は、開業3ヶ月で息切れします。

介護の開業には、他の商売にない特殊なカレンダーがあります。お店なら開店日から売上が立つ。介護は指定日から提供が始まり、現金が入るのはさらに2ヶ月後。しかも人員基準のせいで、給料は指定の前から出ていきます。この「売上ゼロで人件費だけが走る期間」の設計が、介護開業の資金計画そのものです。

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開業カレンダー: お金が出る順・入る順

6〜4ヶ月前法人設立(登記費用)・物件契約(敷金・保証金)・改修設計。ここから出金が始まる
3〜2ヶ月前改修工事・備品購入・職員の雇用開始(人員基準を満たす体制で指定申請するため)。給料日が来る
1〜2ヶ月前指定申請・審査。並行して利用者募集の営業(ケアマネ・相談支援まわり)
指定・開業月サービス開始。利用者はまだ数人。報酬入金はゼロ
開業3ヶ月目初月分の報酬がようやく入金。ただし利用者数はまだ損益分岐の手前
6〜12ヶ月目稼働が育ち損益分岐へ。ここまでの人件費・家賃を運転資金が支える

計算例: 訪問介護の「本当に必要な資金」

  • 初期費用: 事務所・什器・ICT・車両等で400万円訪問介護の記事参照)
  • 月次固定費: サ責+ヘルパー2.5人換算+管理者の人件費と家賃で月120万円とする
  • 売上ゼロ〜少額の期間: 指定前2ヶ月+入金遅れ2ヶ月+立ち上がり4ヶ月 ≒ 実質6ヶ月×月100万円規模の持ち出し
  • 必要資金 = 初期400万円+運転600万円=約1,000万円。「初期費用400万円で開業できる」という見積もりの2.5倍が現実です
  • デイサービスなら初期1,000万〜3,000万円+運転6ヶ月分——桁がひとつ違う覚悟で計画しましょう

業態別・開業資金の早見表

業態初期費用月次固定費の目安損益分岐の感覚値
訪問介護300万〜800万円100万〜150万円登録利用者30〜40人前後から視野
デイサービス1,000万〜3,000万円250万〜400万円稼働率70%台が黒字の入口
障害GH(改修型)500万〜2,000万円150万〜300万円満室-1室程度で安定圏
放課後等デイ500万〜1,500万円150万〜250万円定員10名の稼働8割前後

数字は地域・単価・人員構成で大きく振れるため、あくまで計画の出発点として使い、業態別の記事で固有の構造(稼働率・空室・移動効率)を確認してから精緻化しましょう。共通するのは、どの業態も初期費用と同額かそれ以上の運転資金が要ることです。

自己資金はいくら必要か

創業融資の実務では、必要資金総額の3分の1前後の自己資金があると計画の説得力が大きく変わります(要件としての最低線と、審査で有利になる水準は別物です)。総額1,000万円の訪問介護なら自己資金300万円前後が快適圏。足りない場合は、開業規模を段階化する(最初は訪問介護→軌道に乗ってからデイ併設)、共同経営・法人組成で自己資本を厚くする、という設計側の調整も選択肢です。自己資金の「見せ方」も大事で、通帳でコツコツ貯めた履歴は、直前に動いた同額より強く評価されます。

調達の三本柱: 公庫・制度融資・WAM

  • 日本政策金融公庫(創業融資) — 第一候補。無担保枠・据置期間(元本返済を待ってもらう期間)の設定が、入金2ヶ月遅れの業態と相性抜群です。据置は「開業6ヶ月+α」を目安に交渉しましょう。仕組みの基本は創業融資ガイド(飲食店版)と共通です
  • 自治体の制度融資利子補給・保証料補助が付くと実質負担が大きく下がります。公庫と併走で申し込むのが定石
  • 福祉医療機構(WAM) — 社会福祉法人等の施設整備向け専用ルート。特養・大型施設の整備は「補助+WAM+自己資金」の三本立てが定番です(入所施設の記事参照)
  • 補助金の位置づけ — ICT導入支援・整備費補助は使えるもののすべて後払い。開業資金の柱でなく「後から戻る上乗せ」として計画に載せましょう

相談窓口の一覧: 開業前に回る4ヶ所

指定権者の担当課指定申請の事前相談。人員・設備基準の解釈と、申請〜指定のスケジュール確認。最初に行く窓口
日本政策金融公庫創業融資の相談。事業計画の壁打ち相手としても機能する。予約制の無料相談
商工会議所・よろず支援拠点計画書のブラッシュアップ・制度融資の案内。無料。介護でも普通に使えます
社会保険労務士雇用契約・就業規則・処遇改善加算の設計。指定申請書類と一体で頼むと二度手間なし

制度融資と保証協会: 公庫と並ぶもう一本

自治体の制度融資は「自治体+金融機関+信用保証協会」の三者連携で、利子補給・保証料補助が付くと実質金利が公庫より低くなるケースもあります。窓口は自治体の商工担当か金融機関。公庫と制度融資は併用でき、「公庫で開業資金・制度融資で運転資金」のような分担も定石です。保証協会の保証枠は開業後の追加調達でも使うため、初回から誠実な計画と実績報告を積むことが、2本目・3本目の融資の布石になります。

審査で効く事業計画: 3つの数字

  1. 利用者獲得の根拠 — 「地域にケアマネ◯人と面識、開業前に見込み利用者◯人」の具体性。介護は営業先が明確な業種なので、ここが書けるかどうかで計画の信頼度が決まります
  2. 損益分岐点の利用者数 — 固定費÷利用者1人あたり粗利で一発計算。「登録◯人・月延べ◯回で黒字」の一行は、融資面談の共通言語です
  3. 資金繰り表(着金ベース) — 報酬入金2ヶ月遅れを織り込んだ12ヶ月表。資金繰りの記事の3行方式で作れば、そのまま提出資料になります

よくある誤解

  • 「指定が下りてから人を雇えばいい」 — 逆です。人員基準を満たす体制がないと指定申請自体ができません。先行雇用の人件費は開業費の一部と考えましょう
  • 「補助金で開業資金を作れる」 — 補助金は後払いで、開業前の人件費・家賃には原則使えません。頼るべきは融資、補助金は開業後の設備・ICT投資で効かせる順番です
  • 「借金は少ないほど安全」 — 介護では逆に働くことがあります。運転資金が薄いと、返戻ひとつ・採用の遅れひとつで詰む。余裕を持って借りて使わず残す方が、ギリギリ自己資金より安全です
  • 「2店舗目も同じ計算でいい」 — 2拠点目は初期費用こそ読めるようになりますが、管理者の分身は雇うしかなく、人件費構造が変わります。1拠点目の損益と資金繰りが12ヶ月安定してからが、増設の検討ラインです

開業資金チェックリスト

  • ☐ 初期費用と「実質6ヶ月の売上ゼロ期間」を分けて見積もったか
  • ☐ 損益分岐点の利用者数を計算したか
  • ☐ 指定申請の事前相談日と申請締切(毎月◯日など指定権者のサイクル)を確認したか
  • ☐ 公庫+制度融資の併走・据置期間の設計をしたか
  • ☐ 見込み利用者・紹介元リストを事業計画に書けるか
  • ☐ 開業後に使う補助金(ICT・設備)を後払い前提で別枠にしたか → 募集中の制度は一覧で確認

結論。介護の開業資金は「箱の費用」でなく「時間の費用」——売上ゼロ期間を何ヶ月買えるか、の計算です。今日できることは、固定費の月額と損益分岐の利用者数を電卓で出すこと。地域のケアマネ・相談支援事業所の数を数えて、挨拶に行く順番を決めるのも今日できる仕込みです。その2つの数字を持って公庫に行けば、面談は相談の場になります。準備6ヶ月・据置6ヶ月・立ち上げ6ヶ月——18ヶ月の時間割を最初に引いた人から、介護の開業は事故らなくなります。

開業に使える制度は、どの地域に多いか

2026年9月3日時点で該当する211件を地域別に数えました。うち全国対象が22件で、これはどの地域の介護・福祉事業所でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている155件で見ると、中央値は500万円、最大は10億円です。下から4分の1は80万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は令和8年度「滋賀県ローカルベンチャー創出支援金」【三次募集】…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 介護事業の開業には指定が必要と聞きました。

A. はい。介護保険・障害福祉のサービスを提供して報酬を受けるには、指定権者(都道府県・市区町村等)からサービス種別ごとの指定を受ける必要があります。法人格が前提で、人員・設備・運営基準を満たして申請し、審査を経て毎月1日付などで指定されるのが一般的な流れです。準備開始から指定まで3〜6ヶ月を見ましょう。

Q. 開業費はどのくらいかかりますか?

A. 訪問介護で300万〜800万円、デイサービスで1,000万〜3,000万円、グループホーム(改修型)で500万〜2,000万円が相場観です。これに加えて「開業後の運転資金」を6ヶ月分以上——実はこちらが資金計画の主役です。

Q. なぜ運転資金がそんなに必要なのですか?

A. 人員基準を満たすため指定前から職員を雇用し、開業後も報酬の入金はサービス提供の約2ヶ月後だからです。指定準備2ヶ月+開業後2ヶ月=おおむね4〜5ヶ月は人件費が売上入金に先行します。さらに利用者が損益分岐点まで増えるのに半年前後かかるのが普通です。

Q. どこから借りるのが定石ですか?

A. 日本政策金融公庫の創業融資が第一候補(無担保・据置期間の設定可)、自治体の制度融資(利子補給つき)が併走候補です。社会福祉法人の施設整備には福祉医療機構(WAM)の融資という専用ルートがあります。補助金は後払いなので、開業資金の柱にはできません。

Q. 融資審査で介護事業は有利ですか?

A. 需要の底堅さと報酬債権の確実性は評価されやすい一方、審査で見られるのは「利用者を集められる根拠」です。ケアマネ・相談支援・地域とのつながり、管理者・サ責の経歴、損益分岐までの資金——事業計画書でこの3点を数字で示せると、話が早く進みます。

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