介護・福祉事業所版

介護の事業承継: 指定と利用者を絶やさず渡す

2026年9月3日更新 / 介護・福祉事業者向けガイド

ナビコッコ
介護事業所の廃業は、飲食店の閉店と重みが違います。利用者の生活が止まり、職員が散り、地域のケア資源が消える。だからこそ「継がせる」選択肢を、体力のあるうちに知っておいてほしい。廃業を選ぶ前に、譲渡の相場を聞くのは無料です。

介護事業所の廃業は、単なる会社の店じまいではありません。利用者の生活の連続性が切れ、職員が散り、地域のケア資源が一つ消える——だから行政も金融機関も、介護の承継には「残してほしい」側で動きます。後継者がいない、体力が続かない。そう感じ始めた経営者がまず知るべきは、廃業の手順ではなく、承継という選択肢の相場です。

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まず分岐: 法人譲渡か、事業譲渡か

法人譲渡(株式・持分のM&A)法人ごと引き継ぐため指定・職員の雇用契約・加算はそのまま継続が原則。手続きは軽いが、法人の負債・過誤請求リスクも丸ごと引き継ぐ
事業譲渡事業だけを切り出す。譲受側で新規指定(または変更)の手続きが必要で、指定の空白を作らない段取りが最重要。負債は切り離せる
合併・分割複数事業所・法人格の整理を伴う場合の選択肢。専門家案件

介護で特に重いのは指定の扱いです。事業譲渡での指定切替は、保険者(自治体)への事前相談・申請時期の設計で空白ゼロを作れます。「契約してから考える」ではなく、スキーム選定の段階で行政に相談——これが介護M&Aの鉄則です。

価値の正体: 何が値段になるのか

  • 利用者(稼働) — 登録者・利用者数と要介護度構成。紹介経路(ケアマネとの関係)が生きているかも見られます
  • 職員 — 介護の買い手が最も恐れるのは承継後の一斉離職です。承継後1年で職員の2〜3割が離職した事例は珍しくなく、価格交渉でも定着リスクは最大の論点になります。職員が残る蓋然性=事業価値の大半。定着率・処遇改善の状況・キーパーソンの継続意思が価格を動かします
  • 加算・運営の整い — 処遇改善加算の上位区分・BCP実地指導を無傷で通る記録体制。「書類がきれいな事業所」はデューデリジェンスが速く、値引き材料が出ません
  • 相場観 — 小規模事業所で「年間利益の2〜3年分+時価純資産」が出発点。年商5,000万円・利益率8%のデイなら利益400万円×2〜3年=800〜1,200万円+純資産のレンジ感です。訪問系は設備が軽い分、利用者と職員の比重がさらに高まります
  • 過誤請求・人員基準違反が後から見つかると、価格どころか取引自体が飛びます。売る準備とは、運営を整えること——数年がかりの磨き上げです

引き継ぎの実務: 3方向への説明設計

  1. 行政(保険者) — スキーム決定前に事前相談。指定・加算の承継可否、必要な届出と時期を確定させます。ここを飛ばした承継は必ず後で詰まります
  2. 職員 — 基本合意後に幹部、契約後に全体へ。処遇維持(給与・処遇改善加算の継続・雇用契約)を書面で示すのが動揺対策の本体です。処遇改善加算の計画届の承継手続きも忘れずに
  3. 利用者・家族・ケアマネ — 「担当は変わりません」「サービスは続きます」を、説明会と文書で。外部のケアマネ・地域包括への挨拶回りは、承継後の紹介継続に直結します

お金と支援: 使える窓口

  • 事業承継・引継ぎ支援センター — 全国の無料公的窓口。相談・マッチング・専門家紹介まで。売り手の情報は匿名で登録でき、「まず相場を聞く」の入口として最適です(支援機関の記事参照)
  • 承継関連の補助・優遇 — 承継を機にした設備更新・販路開拓を支援する補助金枠や、登録免許税等の優遇が用意される年度があります。承継系の公募は下の新着・検索で「承継」を折に触れて確認しましょう(現在の募集中は検索ページで「承継」)
  • 買い手側の資金 — 譲受資金は公庫・福祉医療機構の融資が定番です。承継後の改修・ICT化には通常の補助制度(ICT導入支援等)がそのまま使えます
  • 廃業との比較 — 廃業は原状回復・利用者移行・職員の退職金で持ち出しになりがちです。譲渡なら持ち出しゼロどころか対価が入る。比較する前に廃業を選ぶのが、最ももったいない意思決定です

数字で見る承継市場と損得

  • 介護事業者の休廃業・解散は年間500〜600件超の水準で推移し、うち相当数が黒字のままの廃業です。「潰れて閉める」より「回っているのに閉める」が多い——後継者不在が主因の、もったいない構造です
  • 廃業のコストを数えます: 原状回復100〜300万円・利用者移行の対応数ヶ月・職員の退職金・リース解約金。小規模デイでも持ち出し200〜500万円は珍しくありません
  • 譲渡した場合: 年間利益300万円の事業所なら相場観で600〜900万円+純資産分の対価が入ります。廃業との差はざっと1,000万円規模——比較せずに閉めるには大きすぎる差です
  • 交渉期間の目安はマッチングから成約まで6ヶ月〜1年半、デューデリジェンス1〜2ヶ月、行政手続き1〜3ヶ月。「あと2年は続けられる」うちに動き始めた事業所だけが、この選択肢を使えます

時間軸: 3年前から始める出口

  • 3年前 — 運営の磨き上げ開始(加算・記録・定着率)。決算書をきれいに、役員貸付等の整理も。磨き上げ1年で売却額が数百万円変わることは普通にあります
  • 2年前 — センター・仲介への相談、相場の把握。後継者候補(親族・職員・第三者)の棚卸し
  • 1年前 — 相手探しと交渉。基本合意→デューデリジェンス→最終契約
  • 承継後6ヶ月 — 並走期間。前経営者が顔をつなぐ半年が、利用者・職員・地域の定着率を決めます
  • 健康問題で急に走り出す承継は、価格も条件も守れません。元気なうちに始める出口設計こそ、利用者と職員への最後の責任です

よくある誤解

  • 「うちみたいな小さい事業所に買い手はいない」 — 人材難の今、「職員ごと引き継げる事業所」は同業にとって採用より安い拡大手段です。小規模でも職員が残るなら、買い手は現実にいます
  • 「M&Aは身売りで恥ずかしい」 — 利用者と職員の生活を守る承継は、廃業より遥かに責任を果たした出口です。恥ずかしいのは、選択肢を比べずに閉めることのほうかもしれません
  • 「職員承継(従業員への譲渡)は資金的に無理」 — 公庫融資・分割払い・段階譲渡など、職員が継ぐための資金設計は現実に組めます。一番ケアを知る人に継がせたいなら、諦める前に金融機関へ

出口設計チェックリスト

  • ☐ 廃業と譲渡の損得を数字で比較したか
  • ☐ 事業承継・引継ぎ支援センターに相場を聞いたか
  • ☐ 加算・記録・定着率の「磨き上げ」課題を洗い出したか
  • ☐ スキーム(法人譲渡/事業譲渡)ごとの指定の扱いを行政に確認したか
  • ☐ 職員・利用者への開示の順番と文書を設計したか
  • ☐ 並走期間(6ヶ月目安)を契約に織り込んだか
  • ☐ 処遇改善加算の計画届など承継時の届出リストを作ったか
  • ☐ 秘密保持(交渉中の情報管理)のルールを決めたか
  • ☐ 決算書3期分・利用者数推移・職員名簿を提示できる状態にしたか
  • ☐ 買い手の場合、承継後6ヶ月の定着投資予算を確保したか

買い手として読んでいる方へも一言。承継は「採用より安い拡大」ですが、成否は承継後6ヶ月の職員定着で決まります。買収額の1〜2割を「承継後の処遇改善・環境投資」の予算として最初から確保しておく——雇用系助成金やICT導入支援を承継直後の投資に重ねる設計が、定着率を買う最も確実な方法です。

結論。介護の承継は「経営の出口」であると同時に、地域のケア資源を次の担い手に渡すリレーです。走者が倒れてからバトンは渡せません。元気な今日、無料の窓口に相場を聞く——その1本の電話が、利用者・職員・あなた自身の数年後を変えます。

開業に使える制度は、どの地域に多いか

2026年9月3日時点で該当する211件を地域別に数えました。うち全国対象が22件で、これはどの地域の介護・福祉事業所でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている155件で見ると、中央値は500万円、最大は10億円です。下から4分の1は80万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は令和8年度「滋賀県ローカルベンチャー創出支援金」【三次募集】…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 介護事業所も事業承継できますか?

A. できます。経営者の高齢化と人材難で廃業を選ぶ事業所が増える一方、利用者と職員がついた事業所の承継ニーズは底堅く、同業他社・異業種・投資会社への譲渡は年々増加傾向です。廃業してしまう前に、事業承継・引継ぎ支援センター(無料の公的窓口)で相場を聞く価値があります。

Q. 指定(許認可)は引き継げますか?

A. 承継の形で変わります。法人の株式・持分ごと譲渡するM&A(法人譲渡)なら指定は法人に残るため原則そのまま継続——手続きの軽さが最大の利点です。事業だけを切り出す事業譲渡では、譲受側での新規指定申請(または変更手続き)が必要になり、空白期間を作らない段取りが実務の核心になります。

Q. 事業所の値段はどう決まりますか?

A. 利用者数(稼働)・職員の定着・加算の取得状況・指定の種類・不動産の有無で決まります。小規模事業所では「年間利益の数年分+純資産」が出発点の相場観で、職員が残ることが価値の大半を占めます。帳簿と加算関係書類が整っている事業所ほど、高く早く売れます。

Q. 利用者やご家族への説明はどうすべきですか?

A. 運営者変更の丁寧な説明と、ケア継続の約束が最優先です。ケアマネ・家族への説明会、担当職員の継続、サービス内容の維持——「変わるのは看板だけ」を実態で示せるかが、承継後の利用者流出を防ぎます。行政(保険者)への事前相談も必須の段取りです。

Q. 職員には いつ伝えるべきですか?

A. 早すぎる開示は不安と離職を招き、遅すぎる開示は不信を招きます。実務では基本合意後・最終契約前に幹部へ、契約締結後に全体へ、が一般的な段取りです。処遇維持の明文化(雇用契約・処遇改善加算の継続)をセットで示せると、動揺は大きく減ります。

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