飲食店版

飲食店の保険の選び方:潰れないための優先順位

2026年9月3日更新 / 飲食店主向けガイド

ナビコッコ
保険の営業トークは「安心のために」ですが、経営者が買うべきは安心ではなく「潰れない確率」です。飲食店が一晩で潰れるシナリオは火事と食中毒のほぼ2つ。その2つを塞ぐ保険から順に、値段を見ていきましょう。

保険の見直しは、開業のバタバタで入ったきり放置——という店がほとんどです。でも飲食店が一晩で経営危機に落ちるシナリオは、実はほぼ2つに絞られます。火事と食中毒。この2つに対して自分の店がいくらの盾を持っているか、年に1度だけ確認しましょう。この記事はそのための地図です。

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優先順位: 「潰れるシナリオ」から逆算する

①借家人賠償責任賃貸店の生命線。もらい火でなく自店原因の火事・水漏れで、大家への原状回復賠償は数百万〜数千万円級。賃貸借契約で加入が義務のことも多い
②PL保険(生産物賠償)飲食店の職業病リスク。食中毒・異物混入の治療費・賠償。集団食中毒は被害者数×治療費・慰謝料で一気に膨らむ
③施設賠償責任店内の段差で転倒・看板落下など「場」の事故。客商売の基本装備
④火災保険(自店の財物)厨房設備・内装・什器という「自分の資産」を守る。造作に数百万円かけた店ほど必要額が大きい。水漏れ・盗難・ガラス破損まで含むかは商品差があります
⑤休業補償復旧期間の固定費を守る。手元資金の薄い店の順位が上がる

計算例: 年5万円の保険料は何を買っているか

  • 15坪の居酒屋・店舗総合保険(賠償3点+財物1,000万円+休業補償)で年5万円前後のイメージ
  • これで塞がるシナリオ: 厨房火災で内装全損(−800万円)+大家への賠償(−1,500万円)+3ヶ月休業(−300万円)——合計2,600万円級の即死リスク
  • 月4,200円で2,600万円の盾。これを高いと見るか安いと見るかは、手元資金と相談です。ただし「入っているつもりで補償額が足りない」が実際は最多——賠償の上限額と財物の評価額を証券で確認しましょう

見落としがちな4つの穴

  • 補償額の過小 — 開業時のまま内装・設備を増やした店は、財物の評価額が実態とズレています。改装したら保険も改定、をセットに
  • 食中毒の休業 — 営業停止処分の間の損失は、通常の休業補償で対象になるか要確認。食中毒見舞費用・リコール系の特約は飲食ならではの検討項目です
  • 従業員のケガ — 客への賠償と従業員の労災は別制度。労災保険(政府労災)は雇用したら加入義務、上乗せの傷害補償は任意です
  • 地震 — 火災保険だけでは地震による火災・損壊は対象外が原則。地震補償は別枠で判断します

業態別の重み付け: どこに厚くするか

火をがっつり使う業態(中華・焼肉・揚げ物)火災・借家人賠償を厚く。ダクト火災は飲食火災の定番で、隣接店舗への延焼賠償まで視野に
生もの中心(寿司・刺身・生菓子)PL保険と食中毒関連特約を最優先。夏場の集団食中毒が最大の想定シナリオ
酒がメインの業態(バー・居酒屋)酔客の転倒・トラブル=施設賠償の出番が多い。深夜営業は水漏れ発見の遅れリスクも
デリバリー・テイクアウト併用提供後に時間が経ってから食べられる=PLリスクが伸びる。配達中の事故は自動車保険・業務用特約の確認を

保険金請求の実務: 出る保険も、手順を間違えると出ない

  1. その場の記録 — 事故・被害の写真、発生時刻、状況メモ。後からの再現はできません
  2. すぐ保険会社へ一報 — 修理・処分の前に連絡が原則。勝手に片付けると損害の証明が難しくなります
  3. 領収書・見積もりの保存 — 復旧費・休業損失の計算根拠。日頃の帳簿が休業補償の算定土台になります
  4. 食中毒疑いは保健所対応と並行 — 検査協力・記録提出を誠実に。保険の請求にも行政対応の記録が使われます

年1回の見直し: 10分のチェック手順

  1. 保険証券を出し、賠償3点(借家人・PL・施設)の有無と上限額を確認
  2. 財物の補償額と「いま同じ店を作り直したらいくらか」を比べる
  3. 手元資金と休業補償のバランスを見直す(資金が厚くなったら補償を削る判断もあり)
  4. 共済・団体制度(商工会議所・生活衛生同業組合)の見積もりを1本取り、更新のたびに競わせる

団体制度の使い方: 同じ補償を安く買う

  • 生活衛生同業組合・商工会議所の団体保険 — 団体割引で同等補償が1〜2割安くなる例があります。加入している会費の元を取る意味でも見積もりを
  • 都道府県の火災共済・県民共済系 — 掛金の安さと割戻金が魅力。ただし賠償系・休業系の特約の幅は民間が厚いことが多く、共済だけで3つの賠償が揃うかは要確認です
  • 比較のコツ — 「年額いくら」でなく「同じ補償内容でいくら」で並べること。安い見積もりは、たいてい補償のどこかが細い

従業員まわりの上乗せ: 労災だけで足りるか

雇用したら政府労災は義務ですが、労災は治療・休業の基礎部分で、慰謝料や事業主の損害賠償責任まではカバーしません。厨房は火傷・切創・転倒が日常的にある職場——使用者賠償・業務災害の上乗せ補償(年数万円程度から)は、人を雇う店の検討リストに入れておきましょう。アルバイトも労災の対象で、「バイトだから未加入」は違法かつ最悪の事故対応になります。

保険料の上がる時代のコントロール術

火災保険料は自然災害の増加で上昇傾向が続いています。対抗手段は3つ。①免責金額(自己負担)を設定して保険料を下げる——小さな損害は自腹、大きな損害だけ保険に任せる設計は合理的です②長期契約で料率を固定防災投資で事故そのものを減らす——ダクト清掃・消火設備・漏水対策は、保険料と事故確率の両方に効く「一番確実な保険」です。

よくある誤解

  • 「保険に入っているから衛生管理は多少緩くても」 — 保険が守るのはお金だけで、営業停止と信用は守れません。HACCPに沿った衛生管理は保険の前提条件です
  • 「大家の火災保険があるから自分は不要」 — 大家の保険は大家の建物のためのもので、あなたの賠償・設備・休業は守りません。むしろ自店原因の火災では大家(の保険会社)から請求される側です
  • 「保険料は安いほど得」 — 安さの理由が補償の穴なら、それは保険料でなく「気休め料」です。比べるべきは価格でなく、潰れるシナリオが塞がっているかどうか

もし今夜、厨房から出火したら: 60分のシミュレーション

保険の価値は事故の日に決まります。営業終了後、ダクトから発火——①初期消火と119番②全員の安全確認③写真を撮る(消火後の現場・焼損した設備)④保険会社の事故受付へ電話(24時間窓口の番号をスマホに登録してあるか?)⑤大家へ一報⑥翌朝、修理見積もりの前に保険会社の指示を確認——この60分の動きを年1回、頭の中で流しておくだけで、実際の日の判断は別物になります。証券番号と事故受付番号をスマホのメモに入れる。今日の10分でできる、一番実践的な保険対策です。

今日のチェックリスト

  • ☐ 保険証券を探し出したか(見つからない時点で赤信号)
  • ☐ 賠償3点の有無と上限額を確認したか
  • ☐ 財物の補償額と現在の内装・設備投資額を比べたか(改装後の未改定が最多の穴)
  • ☐ 食中毒時の補償範囲を確認したか
  • ☐ 団体制度・共済の相見積もりを取ったか
  • ☐ 事故受付の電話番号と証券番号をスマホに登録したか

結論。保険は「安心」という気分ではなく、「火事と食中毒で潰れない」という具体的な機能を買う買い物です。今日できることは、保険証券を探して賠償の上限額に蛍光ペンを引くこと。10分の作業で、あなたの店の最大リスクの現在地が分かります。保険は使わない年こそ「何も起きなかった」という最高の配当を受け取っている——そう思える設計にしておきましょう。

開業に使える制度は、どの地域に多いか

2026年9月3日時点で該当する245件を地域別に数えました。うち全国対象が29件で、これはどの地域の飲食店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている182件で見ると、中央値は300万円、最大は10億円です。下から4分の1は80万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は令和8年度「滋賀県ローカルベンチャー創出支援金」【三次募集】…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 飲食店に最低限必要な保険は何ですか?

A. 賃貸店舗なら①借家人賠償責任(火事等で大家に対する賠償。契約で加入必須のことが多い)②施設賠償責任(店内で客がケガ)③生産物賠償責任=PL保険(食中毒・提供物での事故)の3点が土台です。これに火災保険(自店の設備・什器)と休業補償を予算に応じて重ねます。

Q. 保険料の相場はどのくらいですか?

A. 小規模店(10〜20坪)で、火災+賠償系のパッケージが年3万〜10万円程度が相場観です。業態(火を使う量・客数)・立地・補償額で変わります。飲食店向けの店舗総合保険や、商工会議所・生活衛生同業組合経由の団体制度は割安なことが多く、相見積もりの価値があります。

Q. 食中毒を出した場合、保険で何が守られますか?

A. PL保険(生産物賠償)が治療費・賠償を、特約や休業系の補償が営業停止期間の損失を対象にし得ます。ただし営業停止処分そのものや信用の回復は保険では買えません。保険は「賠償で潰れない」ための装置で、衛生管理の代わりではない——この順番は変わりません。

Q. 休業補償は必要ですか?

A. 火災・水漏れなどで営業できない期間の固定費(家賃・人件費)を守る補償です。手元資金が薄い店ほど価値が大きく、逆に月商の3ヶ月分の現金がある店なら優先度は下がります。保険は「自力で耐えられない穴」から埋めるのが原則です。

Q. 共済と民間保険はどちらがいいですか?

A. 都道府県の火災共済・業種団体の共済は掛金が割安な傾向があり、小規模店の土台に向きます。一方、PL・休業などの特約の幅は民間が厚いことが多い。「土台は共済・上乗せは民間」の組み合わせも普通です。重要なのはどこで入るかより、3つの賠償が漏れなく揃っているかです。

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