飲食店版

飲食店の保険の選び方:潰れないための優先順位

2026年10月4日更新 / 飲食店主向けガイド

ナビコッコ
保険の営業トークは「安心のために」ですが、経営者が買うべきは安心ではなく「潰れない確率」です。飲食店が一晩で潰れるシナリオは火事と食中毒のほぼ2つ。その2つに備える保険から順に、値段を見ていきましょう。

保険は、開業のバタバタで入ったきり見直さずに放置している店がほとんどです。でも飲食店が一晩で経営危機に陥るシナリオは、実はほぼ2つに絞られます。火事と食中毒。この2つに対して自分の店にいくらの補償があるか、年に1度だけ確認しましょう。この記事は、その確認のための手引きです。

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優先順位: 「潰れるシナリオ」から逆算する

①借家人賠償責任賃貸店の生命線。もらい火でなく自店原因の火事・水漏れで、大家への原状回復賠償は数百万〜数千万円級。賃貸借契約で加入が義務のことも多い
②PL保険(生産物賠償)飲食店の職業病リスク。食中毒・異物混入の治療費・賠償。集団食中毒は被害者数×治療費・慰謝料で一気に膨らむ
③施設賠償責任店内の段差で転倒・看板落下など「場」の事故。客商売の基本装備
④火災保険(自店の財物)厨房設備・内装・什器という「自分の資産」を守る。造作に数百万円かけた店ほど必要額が大きい。水漏れ・盗難・ガラス破損まで含むかは商品差があります
⑤休業補償復旧期間の固定費を守る。手元資金の薄い店の順位が上がる

計算例: 年5万円の保険料は何を買っているか

  • 15坪の居酒屋・店舗総合保険(賠償3点+財物1,000万円+休業補償)で年5万円前後のイメージ
  • これで備えられるシナリオ: 厨房火災で内装全損(−800万円)+大家への賠償(−1,500万円)+3ヶ月休業(−300万円)。合計2,600万円級の、一度で店が潰れかねないリスクです
  • 月4,200円で2,600万円の備えです。これを高いと見るか安いと見るかは、手元資金と相談です。ただし「入っているつもりで補償額が足りない」は見落としやすい穴です。賠償の上限額と財物の評価額を証券で確認しましょう

見落としがちな4つの穴

  • 補償額の過小。開業時のまま内装・設備を増やした店は、財物の評価額が実態とズレています。改装したら保険も改定、をセットに
  • 食中毒の休業。営業停止処分の間の損失は、通常の休業補償で対象になるか要確認。食中毒見舞費用・リコール系の特約は飲食ならではの検討項目です
  • 従業員のケガ。客への賠償と従業員の労災は別制度。労災保険(政府労災)は雇用したら加入義務、上乗せの傷害補償は任意です
  • 地震。火災保険だけでは地震による火災・損壊は対象外が原則です。地震補償は別枠で判断しましょう

業態別の重み付け: どこに厚くするか

火をがっつり使う業態(中華・焼肉・揚げ物)火災・借家人賠償を厚く。ダクト火災は飲食火災の定番で、隣接店舗への延焼賠償まで視野に
生もの中心(寿司・刺身・生菓子)PL保険と食中毒関連特約を最優先。夏場の集団食中毒が最大の想定シナリオ
酒がメインの業態(バー・居酒屋)酔客の転倒・トラブル=施設賠償の出番が多い。深夜営業は水漏れ発見の遅れリスクも
デリバリー・テイクアウト併用提供後に時間が経ってから食べられる=PLリスクが伸びる。配達中の事故は自動車保険・業務用特約の確認を

保険金請求の実務: 出る保険も、手順を間違えると出ない

  1. その場の記録。事故・被害の写真、発生時刻、状況メモ。後からの再現はできません
  2. すぐ保険会社へ一報。修理・処分の前に連絡が原則。勝手に片付けると損害の証明が難しくなります
  3. 領収書・見積もりの保存。復旧費・休業損失の計算根拠です。日頃の帳簿が休業補償の算定のもとになります
  4. 食中毒疑いは保健所対応と並行。検査協力・記録提出を誠実に。保険の請求にも行政対応の記録が使われます

年1回の見直し: 10分のチェック手順

  1. 保険証券を出し、賠償3点(借家人・PL・施設)の有無と上限額を確認
  2. 財物の補償額と「いま同じ店を作り直したらいくらか」を比べる
  3. 手元資金と休業補償のバランスを見直す(資金が厚くなったら補償を減らす判断もあり)
  4. 共済・団体制度(商工会議所・生活衛生同業組合)の見積もりを1本取り、更新のたびに競わせる

団体制度の使い方: 同じ補償を安く買う

  • 生活衛生同業組合・商工会議所の団体保険。団体割引で同等の補償が割安になる例があります。加入している会費の元を取る意味でも見積もりを
  • 都道府県の火災共済・県民共済系。掛金の安さと割戻金が魅力。ただし賠償系・休業系の特約の幅は民間が厚いことが多く、共済だけで3つの賠償が揃うかは要確認です
  • 比較のコツ。「年額いくら」でなく「同じ補償内容でいくら」で並べましょう。安い見積もりは、たいてい補償のどこかが手薄です

従業員まわりの上乗せ: 労災だけで足りるか

雇用したら政府労災は義務ですが、労災は治療・休業の基礎部分で、慰謝料や事業主の損害賠償責任まではカバーしません。厨房は火傷・切創・転倒が日常的にある職場です。使用者賠償・業務災害の上乗せ補償(年数万円程度から)は、人を雇う店の検討リストに入れておきましょう。アルバイトも労災の対象で、「バイトだから未加入」は違法かつ最悪の事故対応になります。

保険料の上がる時代のコントロール術

火災保険料は自然災害の増加で上昇傾向が続いています。対抗手段は3つあります。①免責金額(自己負担)を設定して保険料を下げる。小さな損害は自腹、大きな損害だけ保険に任せる設計は合理的です。②長期契約で料率を固定。③防災投資で事故そのものを減らす。ダクト清掃・消火設備・漏水対策は、保険料と事故確率の両方を下げる「一番確実な保険」です。

よくある誤解

  • 「保険に入っているから衛生管理は多少緩くても」。保険が守るのはお金だけで、営業停止と信用は守れません。HACCPに沿った衛生管理は保険の前提条件です
  • 「大家の火災保険があるから自分は不要」。大家の保険は大家の建物のためのもので、あなたの賠償・設備・休業は守りません。むしろ自店原因の火災では大家(の保険会社)から請求される側です
  • 「保険料は安いほど得」。安さの理由が補償の穴なら、それは保険料でなく「気休め料」です。比べるべきは価格でなく、潰れるシナリオに備えられているかどうかです

もし今夜、厨房から出火したら: 60分のシミュレーション

保険の価値は事故の日に決まります。営業終了後、ダクトから発火したとします。①初期消火と119番②全員の安全確認③写真を撮る(消火後の現場・焼損した設備)④保険会社の事故受付へ電話(24時間窓口の番号をスマホに登録してあるか?)⑤大家へ一報⑥翌朝、修理見積もりの前に保険会社の指示を確認。この60分の動きを年1回、頭の中でなぞっておくだけで、実際の日の判断は別物になります。証券番号と事故受付番号をスマホのメモに入れておきましょう。今日の10分でできる、一番実践的な保険対策です。

今日のチェックリスト

  • ☐ 保険証券を探し出したか(見つからない時点で赤信号)
  • ☐ 賠償3点の有無と上限額を確認したか
  • ☐ 財物の補償額と現在の内装・設備投資額を比べたか(改装後の未改定は見落としやすい穴)
  • ☐ 食中毒時の補償範囲を確認したか
  • ☐ 団体制度・共済の相見積もりを取ったか
  • ☐ 事故受付の電話番号と証券番号をスマホに登録したか

結論。保険は「安心」という気分ではなく、「火事と食中毒で潰れない」という具体的な機能を買う買い物です。今日できることは、保険証券を探して賠償の上限額に蛍光ペンを引くこと。10分の作業で、あなたの店が最大のリスクにどこまで備えられているかが分かります。保険は、使わない年こそ「何も起きなかった」という最高の配当を受け取っている。そう思える設計にしておきましょう。

地震・水害と公的支援の使い分け:保険がカバーしない領域

火災保険は、地震による火災・倒壊を原則カバーしません。地震のリスクに備えるには、①地震保険・地震補償特約(掛金は上がりますが対象を広げられます)②災害時に使える公的支援制度、という二段構えで考えましょう。水害(豪雨による浸水)も、水災補償を付帯していない商品では対象外になるため、契約時に「水災」の一文を必ず確認しましょう。保険で備えるのは復旧費用そのもの、公的支援制度で備えるのは復旧までのつなぎ資金や設備の再取得支援です。役割が違うので、両方の窓口を知っておくことが本当の備えになります。

ありがちな失敗パターン: 保険が効かなかったケース

  • 免責金額を確認せず契約。小さな水漏れ被害が免責金額(自己負担ライン)以下で、保険金が一切下りなかったケース。契約時に見るのは保険料だけでなく、この免責ラインです
  • 休業補償の対象期間を勘違い。「復旧が終わるまでずっと」と思い込んでいたら、実際の補償期間には契約で上限が定められていたケース。期間の上限は証券の細字に書かれています
  • 什器の入れ替えで補償額が実態とズレたまま。開業時の内装評価額のまま10年放置し、いざという時に「再取得価格」に届かない保険金しか出なかったケース。改装のたびの見直しが必要な理由がここにあります

共通するのは、契約時に約款を最後まで読んでいないことです。保険は「入っているか」より「どこまで効くか」で評価しましょう。従業員の労災上乗せを検討する際も、社会保険の記事で公的な基礎部分(政府労災)の範囲を先に押さえておくと、民間の上乗せ補償で何を足すべきかが見えやすくなります。

参考・出典

開業に使える制度は、どの地域に多いか

2026年10月19日時点で該当する235件を地域別に数えました。うち全国対象が31件で、これはどの地域の飲食店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている165件で見ると、中央値は200万円、最大は10億円です。下から4分の1は60万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は中小企業等グループ補助金(東日本大震災)についての2026年10月23日(あと4日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 飲食店に最低限必要な保険は何ですか?

A. 賃貸店舗なら①借家人賠償責任(火事等で大家に対する賠償。契約で加入必須のことが多い)②施設賠償責任(店内で客がケガ)③生産物賠償責任=PL保険(食中毒・提供物での事故)の3点が基本です。これに火災保険(自店の設備・什器)と休業補償を予算に応じて重ねます。

Q. 保険料の相場はどのくらいですか?

A. 小規模店(10〜20坪)で、火災+賠償系のパッケージが年3万〜10万円程度が相場観です。業態(火を使う量・客数)・立地・補償額で変わります。飲食店向けの店舗総合保険や、商工会議所・生活衛生同業組合経由の団体制度は割安なことが多く、相見積もりの価値があります。

Q. 食中毒を出した場合、保険で何が守られますか?

A. PL保険(生産物賠償)が治療費・賠償を、特約や休業系の補償が営業停止期間の損失を対象にし得ます。ただし営業停止処分そのものや信用の回復は保険では買えません。保険は「賠償で潰れない」ための仕組みで、衛生管理の代わりではありません。この順番は変わりません。

Q. 休業補償は必要ですか?

A. 火災・水漏れなどで営業できない期間の固定費(家賃・人件費)を守る補償です。手元資金が薄い店ほど価値が大きく、逆に月商の3ヶ月分の現金がある店なら優先度は下がります。保険は「自力で耐えられない穴」から埋めるのが原則です。

Q. 共済と民間保険はどちらがいいですか?

A. 都道府県の火災共済・業種団体の共済は掛金が割安な傾向があり、小規模店の基本の備えに向きます。一方、PL・休業などの特約の幅は民間が厚いことが多い。「基本は共済・上乗せは民間」の組み合わせも普通です。重要なのはどこで入るかより、3つの賠償が漏れなく揃っているかです。

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公開 2026年8月8日 / 最終更新 2026年10月4日 / この記事は、公的機関が公開する一次資料をもとにホジョナビ編集部が作成したもので、執筆補助にAIを使用。金額・要件・締切は各制度の公募要領が常に優先。制作方針と情報源

更新履歴(2件)
  • 「補償額不足が最多」「団体割引で1〜2割安く」の数字を、公的な根拠がないため目安の表現に変更、参考・出典を追加
  • 火災保険が地震による火災・倒壊を原則補償しない点と水災補償の確認、免責金額や補償期間の上限など保険が効かなかった失敗パターンを追記、参考・出典を追加
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