経営事項審査(経審): P点の仕組みと、点数が決まるタイミング
公共工事を元請として受注するには、経営事項審査(経審)を受けて総合評定値(P点)を持つ必要があります。P点は発注機関の格付けに直結し、「どのランクの工事に応札できるか」を決めます。そして最も大事なポイントは、P点は決算書の写像であるということ。つまり点数の勝負は、決算が締まる前に終わっています。この記事では、P点の構成、点数が決まるタイミング、現実的な引き上げ策を整理します。制度は改正されることがあるため、最終確認は所管の許可行政庁の手引きで行いましょう。
P点は何でできているか
| 要素 | 見られるもの | 動かせる時期 |
|---|---|---|
| X1(完成工事高) | 業種別の完成工事高(平均年間) | 決算まで(工事の計上時期・業種の振り分け) |
| X2(自己資本額・平均利益額) | 純資産、利払前税引前償却前利益 | 決算まで(増資・利益の確保) |
| Y(経営状況分析) | 負債の状況、収益性、財務健全性、絶対的力量の8指標 | 決算まで(借入と資産の構成) |
| Z(技術力) | 技術職員の数(資格区分ごとの点数)、元請完成工事高 | 年間を通じて(資格取得・採用) |
| W(社会性等) | 雇用・保険加入、退職金制度、防災協定、法令遵守、建設機械の保有、CCUSの活用など | いつでも |
「経審の点数を上げたい」という相談の多くは決算後に来ます。しかしX1・X2・Yは決算の数字そのものなので、締まった後にできることはほとんどありません。動かせるのはZとW——特にWは決算と無関係に積める点数です。
決算前にやるべきこと
- 完成工事高の計上時期: 期末をまたぐ工事の完成・引渡しのタイミングを、無理のない範囲で意識する(当然ながら実態に反する計上はできません)
- 業種の振り分け: 完成工事高を許可業種ごとにどう振り分けるかで、業種別のP点が変わります。実態に沿った区分を正確に行う
- 利益の確保: 節税を優先しすぎると自己資本と利益が薄くなり、X2とYが下がります。節税と経審は逆方向に働くことを理解して判断する
- 借入と資産の構成: 負債の圧縮、遊休資産の整理は財務指標に効きます
- 未成工事支出金・受取手形の管理: 財務指標に影響するため、期末の状態を把握しておく
ここが経審の面白いところで、税理士に「節税してください」と頼むほど点数は下がることがあります。公共工事の比率が高い会社ほど、決算方針を「税負担」と「経審」の両面で決める必要があります。
W(社会性等)は今日から積める
| 取り組み | 内容 | 着手の目安 |
|---|---|---|
| 社会保険等の加入 | 雇用・健康・厚生年金の適正な加入 | 未加入は減点。最優先で是正 |
| 退職金制度 | 建設業退職金共済(建退共)や中小企業退職金共済への加入 | 加入手続きのみで評価対象 |
| 法定外労災の付保 | 上乗せ労災保険への加入 | 保険会社との契約 |
| 建設キャリアアップシステム | 事業者・技能者の登録と就業履歴の蓄積 | 登録と現場での運用 |
| 防災協定 | 自治体等との災害時協定(単独または団体経由) | 建設業協会経由が現実的 |
| 若年技術者の育成 | 若手の継続雇用と新規育成 | 採用計画と連動(人材助成金の解説) |
| ISO・エコアクション等の認証 | 品質・環境のマネジメント認証 | 取得に数ヶ月〜1年 |
Wの項目は「やっているのに申告していない」だけで点数を落としていることがあります。建退共に入っているのに証紙の管理が不十分、防災協定に参加しているのに書類がない——申請前に、自社の取り組みを棚卸ししましょう。
Z(技術力)は採用と資格で積む
技術職員は資格区分ごとに点数が異なり、1級の国家資格者は高い点数になります。既存の社員が資格を取れば、その年から点数に反映されます。
| 打ち手 | 効果 | あわせて使える制度 |
|---|---|---|
| 社員の1級・2級施工管理技士の取得支援 | Zが上がる。本人の処遇改善にもなる | 人材開発支援助成金(研修前の計画届が必須) |
| 有資格者の中途採用 | 即効性がある | トライアル雇用・特定求職者雇用開発 |
| 技術職員の名簿整備 | 申告漏れの防止 | — |
申請の流れと年間サイクル
| 時期 | やること |
|---|---|
| 決算の3ヶ月前 | 税理士と決算方針を協議(節税と経審のバランス)。Wの取り組みを点検 |
| 決算 | 決算確定、税務申告 |
| 決算後 | 登録経営状況分析機関へ経営状況分析(Y)を申請 |
| 分析結果の受領後 | 許可行政庁へ経営規模等評価(X・Z・W)と総合評定値(P)を申請 |
| 結果通知 | P点の通知を受領(有効期間は審査基準日から1年7か月) |
| 並行 | 発注機関ごとの入札参加資格審査(申請時期は機関ごとに異なる) |
注意したいのは、経審の結果と入札参加資格審査は別の手続きだということです。P点を取っても、発注機関ごとの資格申請をしなければ入札には参加できません。機関ごとの受付時期をカレンダーに入れておきましょう。
P点とランクの関係を数字で見る
発注機関ごとに基準は異なりますが、格付けの考え方はおおむね共通です。目安として、土木一式のランク分けは次のようなイメージになります(機関により大きく異なるため、必ず自社が参加する機関の基準を確認しましょう)。
| ランクの目安 | P点の帯 | 対象工事の規模感 | 必要な体制 |
|---|---|---|---|
| 下位ランク | 600〜700点台 | 数百万〜3,000万円程度 | 技術者2〜3名、地域密着の施工 |
| 中位ランク | 700〜900点台 | 3,000万〜1億円程度 | 技術者5名以上、機械の保有 |
| 上位ランク | 900点以上 | 1億円超 | 技術者10名以上、資金力と施工管理体制 |
W(社会性等)の項目は、1つ整えるだけで数点から十数点動くことがあります。社会保険の適正加入、建退共への加入、法定外労災、防災協定、CCUSの活用——この5つを揃えるだけでランクの境目を越える会社は珍しくありません。一方でX1(完成工事高)を1割増やしても点数の伸びは緩やかで、しかも1年では動きません。短期はW、中期はZ、長期はX1とYという時間軸で考えると、打ち手の優先順位が決まります。
点数を上げる前に考えること
P点を上げれば上のランクの工事に応札できますが、ランクが上がると競争相手も変わります。技術者の配置、資金繰り、施工体制が追いつかないまま大型工事を受けると、赤字工事や人員の疲弊につながります。点数は「取れる工事の幅」を広げる道具であって、目的ではありません。自社の施工能力と資金力に合ったランクを見極めることも、経営判断の一部です。
実務チェックリスト
- ☐ 直近の経審結果通知書を確認し、X1・X2・Y・Z・Wの内訳を把握した
- ☐ 有効期間(審査基準日から1年7か月)の満了日をカレンダーに登録した
- ☐ 決算の3ヶ月前に、税理士と「節税と経審」の方針を協議した
- ☐ 完成工事高の業種別の振り分けが実態に沿っているか確認した
- ☐ 社会保険等の加入状況に漏れがないか点検した
- ☐ 建退共・中退共など退職金制度への加入状況を確認した
- ☐ 法定外労災(上乗せ労災)に加入しているか確認した
- ☐ 建設キャリアアップシステムの事業者・技能者登録の状況を確認した
- ☐ 防災協定への参加状況(単独・団体経由)を確認した
- ☐ 技術職員の名簿と資格を棚卸しし、申告漏れがないか確認した
- ☐ 資格取得支援に使える助成金の計画届の時期を確認した
- ☐ 発注機関ごとの入札参加資格審査の受付時期を一覧にした
結論: 点数の勝負は、決算の前に終わっている
経審のP点は決算書の写像です。X1・X2・Yは決算が締まれば動かせず、動かせるのはZ(技術力)とW(社会性等)。特にWは決算と無関係に今日から積める点数で、「やっているのに申告していない」だけで損をしている会社が少なくありません。相談すべきタイミングは決算後ではなく決算の3ヶ月前——この順番を変えるだけで、翌年の入札の土俵が変わります。制度は改正されるため、最新の手引きを所管の行政庁で確認しましょう。
開業に使える制度は、どの地域に多いか
2026年9月3日時点で該当する211件を地域別に数えました。うち全国対象が22件で、これはどの地域の建設業・工務店でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。
| 都道府県 | 該当する制度 | その地域の一覧 |
|---|---|---|
| 東京都 | 16件 | 東京都の建設業・工務店向け制度 |
| 福島県 | 10件 | 福島県の建設業・工務店向け制度 |
| 埼玉県 | 9件 | 埼玉県の建設業・工務店向け制度 |
| 福岡県 | 9件 | 福岡県の建設業・工務店向け制度 |
| 北海道 | 8件 | 北海道の建設業・工務店向け制度 |
| 熊本県 | 8件 | 熊本県の建設業・工務店向け制度 |
| 大分県 | 7件 | 大分県の建設業・工務店向け制度 |
| 兵庫県 | 6件 | 兵庫県の建設業・工務店向け制度 |
| 岩手県 | 5件 | 岩手県の建設業・工務店向け制度 |
| 新潟県 | 5件 | 新潟県の建設業・工務店向け制度 |
上限額が公表されている156件で見ると、中央値は500万円、最大は10億円です。下から4分の1は80万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。
直近の締切は令和8年度「滋賀県ローカルベンチャー創出支援金」【三次募集】…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。
よくある質問
Q. 経営事項審査とは何ですか?
A. 公共工事を発注者から直接請け負おうとする建設業者が、必ず受けなければならない客観的な評価です。会社の規模・財務・技術力・社会性などを数値化し、総合評定値(P点)として表されます。P点は発注機関の入札参加資格の格付けに使われます。
Q. P点はどう構成されていますか?
A. 大きく5つの要素で構成されます。X1(完成工事高)、X2(自己資本額と平均利益額)、Y(経営状況分析=財務の健全性)、Z(技術力=技術者の数と元請完成工事高)、W(その他の審査項目=社会性等)です。それぞれにウエイトがあり、合成してP点が算出されます。
Q. 点数はいつ決まりますか?
A. <strong>決算の内容で決まります</strong>。経審は決算書を審査するため、決算が締まった後にできることは限られます。点数を意識するなら、決算日の数ヶ月前から動く必要があります。
Q. 有効期間はどのくらいですか?
A. 経審の結果通知書の有効期間は審査基準日(決算日)から1年7か月です。公共工事を直接請け負う間は切れ目なく更新する必要があるため、毎年決算後に受け続けるのが基本です。
Q. 点数を上げる近道はありますか?
A. 短期で効きやすいのはW(社会性等)です。建設キャリアアップシステムの活用、退職金制度や法定外労災への加入、防災協定、若手技術者の育成といった項目は、決算に関係なく取り組めます。逆にX1(完成工事高)やY(財務)は決算の組み方と実績の積み上げが必要です。
Q. 経審を受けないと公共工事はできませんか?
A. 発注者から直接請け負う(元請となる)場合は必要です。下請として工事を行う場合は経審は必須ではありません。ただし元請が下請の体制を評価する際に、経審の有無や点数が見られることはあります。