農業・農家版

農地を買う・借りるときのお金:許可・機構・補助の順番

2026年9月3日更新 / 農業者向けガイド

ナビコッコ
農地の相談で一番多い勘違いが「気に入った土地があれば買える」です。農地は農業委員会の許可がないと名義が動きません。しかも許可には「経営できる見込み」の審査がついてくる。土地探しより先に、農業委員会に顔を出すほうが結局早いです。

農地は、普通の不動産とはお金の動き方がまったく違います。名義を動かすには農業委員会の許可が要り、価格は地域差が大きく、購入と賃借のどちらが得かは経営年数次第で答えが変わります。この記事は農地を買う・借りるときのお金の仕組みを、許可の手続きから農地中間管理機構、相続の納税猶予、購入と賃借の損益分岐まで整理します。

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まず知るべきこと: 農地は自由に売買できない

「お金さえ払えば土地は買える」と思っていませんか。農地に関しては通用しません。農地の所有権移転・賃借権設定は農地法3条の許可が必要で、農業委員会が審査します。見られるのは金額ではなく、取得後にきちんと経営できる見込みがあるか(全部効率利用要件・下限面積要件・地域との調和要件など)です。転用(農地以外の用途に変える)を伴う場合は4条・5条許可という別の手続きが必要になり、審査の重さも変わります。

3条許可農地のまま所有権移転・賃借権設定。買う・借りるの基本ルート
4条許可所有者が自分の農地を転用(農地以外の用途に変える)
5条許可転用を目的とした所有権移転・賃借権設定
農地中間管理機構の事業機構を通す場合、個別の3条許可でなく機構の事業として手続きが進み、事務が簡素になる

農地中間管理機構(農地バンク): 借りるなら使わない手はない

個々の地権者と直接交渉するのは、相続で権利者が分散している農地ほど手間がかかります。農地中間管理機構は、貸したい地権者の農地をいったん機構が借り受け、まとまった形で担い手に転貸する仕組みです。借り手にとっては窓口が機構1つに集約され、貸し手にとっては機構が管理してくれる安心感があります。

地域によっては、機構に農地を貸し出した地権者への地域集積協力金や、経営転換して農地を貸し出す高齢農家向けの経営転換協力金といった支援が用意されることがあります。名称・単価は年度・地域で変わるため、借りたい農地がある地域では市町村の農地担当課に「機構を使うと何か支援がありますか」と聞いてみましょう。

下限面積要件: 小さな農地から始めたい人の壁

「1反(10a)だけ借りて小さく始めたい」と思っていませんか。農地法3条の許可には下限面積要件があり、原則として農業委員会が定める面積(多くの地域で50a=0.5haが基準)に達しないと、新規に権利を取得できません。全国一律ではなく、新規就農者の増加を受けて、市町村が別段の面積(10a〜30a程度まで)を定めて引き下げているケースが広がっています。

原則の下限面積50a(0.5ha)。これに達しない権利取得は原則不許可
別段の面積を定める市町村新規就農者向けに10a〜30a程度まで引き下げている地域が増加傾向
確認方法就農予定地の農業委員会に「別段の面積の設定はありますか」と確認するのが確実
複数筆に分けて取得する場合合計面積で下限要件を判定するのが基本。分割取得で回避する発想は通用しにくい

小規模から始めたい新規就農者ほど、この要件を知らずに「農地が見つからない」と悩みがちです。実際には、市町村ごとの別段面積を確認し、必要なら複数の農地をまとめて借りる計画に組み替えるだけで道が開けることがあります。土地探しを始める前に、下限面積の設定を確認しておきましょう。

相場観: 購入と賃借の目安

水田(購入)10aあたり数十万円が目安。都市近郊・条件の良い圃場は200万円を超える地域も
水田(賃借)10aあたり年間数千円〜1万円台が目安。地域の水利費・基盤整備の有無で変動
畑・樹園地作目と収益性で評価が変わり、水田より価格差が大きい傾向
造成・整地費用荒廃農地の再生には10aあたり数十万円規模の費用がかかることがある

地域差が非常に大きい項目なので、この数字はあくまで目安です。取得前に必ず地元の農業委員会・不動産事業者・JAの営農担当に地域相場を確認しましょう。

計算例: 買うか借りるかの損益分岐

  • 10aあたり購入価格30万円の水田を2ha(20a×10区画相当)取得する場合、総額はおよそ600万円です
  • 同じ農地を賃借する場合、10aあたり年間8,000円とすると、2haで年間16万円の地代です
  • 単純計算では、購入価格600万円÷賃借料年16万円=37.5年分に相当します。長期で経営を続ける確信があるなら購入、就農初期や作目を試している段階なら賃借が現実的な選択です
  • ただし購入は資産として残り、相続や法人化の際の担保評価にもなります。賃借は初期投資を抑えられる代わりに、契約更新や地権者の事情変更のリスクを抱えます。資金の余力と経営年数の見通しで選びましょう
  • 新規就農で30aから小さく始める場合、購入なら90万円前後、賃借なら年2.4万円前後が目安です。就農1〜3年目は収入が読みにくいため、初期は賃借で始め、5年目以降に黒字が安定してから購入に切り替えるという段階的な計画が現実的です

取得資金: 補助金は後払い、まず制度資金でつなぐ

農地取得そのものに使える直接補助は多くありません。実務では、公庫の農業経営基盤強化資金(スーパーL資金などの制度資金で取得資金を調達するのが一般的です(詳しくは農業の制度資金ガイド)。基盤整備・圃場整備の補助事業は、農地を取得した後の改良・整備にかかる費用の一部を補助する仕組みで、先に工事費を全額支払い、実績報告のあとで補助金が入金される後払い設計です。

つまり農地取得の場面でも、農業補助金全般に共通する「後払い→制度資金でつなぐ」の原則がそのまま当てはまります。取得と整備を同時に計画する場合は、購入代金・整備費・自己負担分をまとめて資金計画に織り込み、公庫や信用金庫と早めに相談しましょう。

新規就農者・認定農業者の優遇

認定新規就農者や認定農業者になると、農地中間管理機構を通じた農地のあっせんで優先的に紹介を受けやすくなり、機構集積協力金の対象にもなりやすくなります。就農相談の段階で「農地はどこかにありますか」と聞くだけでなく、市町村の農政課・農業委員会・機構の三者に同時に相談すると、農地情報が集まる速度が変わります。新規就農の支援制度ガイドと合わせて動くと効率的です。

相続・贈与のときの納税猶予

農業を継続する後継者が農地を相続・贈与で受け継ぐ場合、農地の相続税・贈与税の納税猶予制度が使えることがあります。一定期間農業を継続するなどの要件を満たせば、猶予された税額が将来的に免除されるケースもあり、担い手への農地集積を後押しする税制です。適用を受けるには申告時の手続きと継続届出が必要で、途中で農業をやめると猶予が打ち切られ利子税とともに納税が発生するリスクもあるため、早めに税理士・農業委員会に相談しましょう。

実務チェックリスト

  • ☐ 取得・賃借を検討している農地について、農業委員会に3条許可の要件を確認したか
  • ☐ 下限面積要件と、市町村の別段の面積(引き下げ)の有無を確認したか
  • ☐ 農地中間管理機構を使えるか、地域集積協力金等の有無を市町村に確認したか
  • ☐ 地域の農地価格・賃借料相場を農業委員会・不動産事業者に確認したか
  • ☐ 購入と賃借を、経営年数の見通しと資金の余力で比較したか
  • ☐ 取得資金を制度資金(公庫等)でどう調達するか計画したか
  • ☐ 圃場整備・基盤整備の補助を使う場合、後払いである点を資金計画に織り込んだか
  • ☐ 認定新規就農者・認定農業者としての優先あっせんを確認したか
  • ☐ 相続・贈与を予定しているなら、納税猶予制度の要件を税理士に確認したか

結論: 土地探しより先に、農業委員会と機構に相談する

農地のお金は、価格交渉より先に許可の見込みが決まります。気に入った土地が見つかっても、農業委員会が経営の実現可能性を審査するまでは名義は動きません。だからこそ実務の正しい順番は、土地を探す前に農業委員会と農地中間管理機構に相談すること。購入か賃借かは経営年数の見通しで機械的に決まり、取得資金は後払いの補助金でなく制度資金でつなぐ。この3つの順番さえ守れば、農地取得は思うより整理された手続きになります。

開業に使える制度は、どの地域に多いか

2026年9月3日時点で該当する74件を地域別に数えました。うち全国対象が6件で、これはどの地域の農業・農家でも申請できます。残りは地域限定なので、自分の都道府県にあるかを先に見ましょう。

上限額が公表されている52件で見ると、中央値は100万円、最大は10億円です。下から4分の1は36万円以下なので、「小さく試す」規模の制度も含まれています。

直近の締切は令和8年度「滋賀県ローカルベンチャー創出支援金」【三次募集】…の2026年9月4日(あと1日)です。締切の並びは締切間近の制度でまとめて確認しましょう。

よくある質問

Q. 農地は誰でも自由に買えますか?

A. 買えません。農地の所有権移転・賃借権設定には農地法3条の許可が必要で、農業委員会が「農業経営を継続してできる見込みがあるか」等を審査します。農地以外の用途に転用する場合はさらに別の許可(4条・5条)が必要です。気に入った土地があっても、先に農業委員会へ相談するのが実務の順番です。

Q. 農地中間管理機構(農地バンク)とは何ですか?

A. 都道府県が設置する機関で、貸したい農地をいったん機構が借り受け、まとまった形で担い手に貸し出す仕組みです。機構を通せば個々の地権者との交渉の手間が省け、農業委員会の許可も個別の3条許可でなく機構の事業として処理されるため手続きが簡素になります。地域によっては地域集積協力金など、機構を使うこと自体に支援がつく場合があります。

Q. 農地の価格相場はどのくらいですか?

A. 地域差が非常に大きい項目です。水田で10aあたり数十万円という地域もあれば、都市近郊で200万円を超える地域もあります。賃借の場合は10aあたり年間数千円〜1万円台が目安ですが、これも地域・用途で大きく変わります。購入前には地元の農業委員会や不動産事業者に地域相場を確認しましょう。

Q. 農地の取得に使える補助金や融資はありますか?

A. 農地取得そのものへの直接補助は少なく、公庫の農業経営基盤強化資金など制度資金での取得が一般的です。新規就農者は認定新規就農者になることで、機構集積協力金や自治体の農地取得支援の対象になりやすくなります。圃場整備・基盤整備の補助事業は取得後の農地改良に使うもので、取得費そのものとは別の話です。

Q. 農地を相続・贈与するときの税金はどうなりますか?

A. 農業を続ける後継者への相続・贈与には、農地の相続税・贈与税の納税猶予制度があります。一定期間農業を継続する等の要件を満たせば、猶予された税額が将来的に免除される場合もあります。担い手への農地集積を後押しする税制なので、承継予定があるなら早めに税理士・農業委員会に相談しましょう。

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